どんな嘘をついても、結局はいい人
「さて、もういい加減着くよな?」
「・・・・」
「おい、大丈夫か?」
俺は、神羅の言葉を無視し、真剣に優羅の指示を聞いていた。
「この先を真っ直ぐに行き、右に曲がったところで合っているはずです」
「・・・・今度は間違えていないだろうな?これで間違えていたら・・・・」
「私のことを信用して下さい」
「・・・・」
ため息をつきながら、優羅の指示通りに歩いて行くが、神羅がしつこく話しかけて来る。
「これだから信用で・・・・」
俺が無視をし続けると、神羅は諦めたようにボソッと言ったが、俺は、その言葉を遮るように言葉を発した。
「着きましたよ、ここです!」
「本当にそうなのか?」
そう神羅に聞かれて、普通は躊躇わずにうなずくはずなのだが、俺は躊躇ってしまった。なぜなら、優羅の言うとおりの場所に来たのに、優羅の姿が見えない。だから、躊躇ったのだ。しかし、ここでうなずかない訳にもいかないと思って、無理矢理うなずいたのだ。
「ええ、そうですよ」
「修羅らしき人物はいないじゃないか」
そう神羅が言った途端、突然上から何者かが降って来て、俺は、一歩後ろに下がったが、俺と同じ黒いマントを羽織っている為、優羅だとわかった。
優羅は立ち上がると、俺を無視して、真っ直ぐ神羅の方へ歩いて行き、神羅と握手をした。
「牢獄に閉じ込められた者。大切な物。全てを拾って来たか?」
「・・・・なんでそんなことを聞くんだ?」
「ここを完全に消し去る」
その言葉を聞いた時、俺は思わず目を見開いた。そんなことは聞いていない。今初めて聞かされたのだ。目の前にいる優羅に今すぐ話を聞きたくなったが、神羅が話しを進める為、黙ってその話を聞いていることにした。
「なっ・・・・それじゃあ、残った奴らはどうなるんだよ?」
「それは、消えるんじゃないか?俺には知った事じゃない」
「・・・・」
俺は一瞬、目の前にいて話しているのは優羅じゃないんじゃないかと思った。確かに、あいつは性格が悪いところもあるが、あんなことを平気で言えるほど最低な奴じゃない。だから、一瞬そう思ったのだ。
「・・・・お前、修羅って名前なんだろ?」
「ああ、それがどうした?」
「それ、本当の名前なのか?」
「本当の名前さ。嘘を言って何になる?」
「そう・・・・か。なら、俺が、『大切な物、閉じ込められた者を全て救出した。残ってるのは警備員だけだ』と言ったら・・・・?」
「準備完了と見なして、この地獄監獄と言う場所を消し去る」
俺は、口を挟むと言うことはしなかったが、疑問が沢山頭の中で渦巻いている。まず第一に、この地獄監獄を消滅させるとはどう言うことなのか。それから、もし、地獄監獄を消滅させるにせよ、俺達はどうやってここから出るのかと言うことだ。
しかし、それもまた、神羅が俺に変わって聞いてくれた。
「俺達はどうするんだよ?この場から出ることは出来ないんだろ?」
「ここの脱出方法なんて、簡単なものだ。ワープを使えばいい。そうすれば、一瞬で外に出ることが可能だ。準備はいいか?」
そう問われている神羅は、うつむいて黙り込んでしまった。戸惑っているのが手に取るようにわかる。しかし、不意に顔をあげた。
「警備員はどうするんだ?」
「警備員の奴らのことなんざ知らん。お前だって大切な族長を苦しめられたはずだ。だから、死んだって構いはしないだろう?」
俺は、その言葉には黙っていられなくなって、優羅に近付いた。もう黙ってはいられない。いくら演技とは言え、言っていいことと悪いことがあるのだ。しかし、神羅に突然話しかけられて、俺は立ち止まった。
「おい、優羅、俺、ここに来る時に、修羅が族長に似てるって言ったよな?」
「・・・・ええ、そう言えば、そんなことを言っていたような気がします。・・・・それが、今、どうしたんですか?」
「・・・・違うんだよ」
「は?」
俺は、神羅が何を言いたいのか全くわからず、間の抜けた声しか出せなかった。しかし、神羅が怒っていることはわかった。今まで俺が見たことがないほどに。
「こいつは、族長とは全然違う!こんな奴が族長なはずがねぇ!族長は、こんな意地汚ねぇ奴とは違う!!」
予想を覆した反応に、優羅はポカンとした顔をしていたが、慌てて表情を元に戻すと、声を殺して笑い出した。いくら演技をしていると言っても、想定外の反応に、思わず素に戻ってしまったんだろう。
「何が可笑しい!?」
「俺が意地汚いか・・・・。まぁ、なんとでも言え。俺は、人に嫌われるのには慣れている。別に、何を言われたって構わない。ただ、俺は、地獄監獄に恨みを持つ者同士、仲良くしようと言っているだけだ」
「・・・・復讐とか言うやつか?」
神羅は、ずっと変わらない、睨むような鋭い目で優羅を見るが、優羅はその視線を受け流し、微笑みを浮かべた。
「それと、似ても似つかないもの・・・・だけど、総合的に言うと、そうなのだろうな」
「・・・・確かに、幸明のやり方は気に食わねぇ。何の罪もない奴らを閉じ込めて、逆らっただけで罪を重くする。・・・・それに仕えている警備員もどうかと思うぜ。そのことに納得がいっていない奴でも、従っていれば同じ。
・・・・ただ、俺達と同じ生物だと言うことに変わりはねぇだろ?生きとし生けるもの、その全てがお互いの死を攻め立ててはならない。お互いを殺していいことなんかないんだ。例え、国王でも神様でもいけないんだ。だから、お前は、神達すらやってはいけないことを実行しようとしてるんだ」
神羅が真剣に言っているのだが、優羅はそれを馬鹿にしたような笑みを浮かべると、口を開いた。
「俺に説教か?お前、俺に説教出来るほどいい生き様をして来たのか?」
優羅はそう言って神羅の方に目を向けるが、その視線が俺に向けられているようで、自然と目を逸らす。別に、睨んでいる訳でもないのだが、自然と、その目を見ることが出来なかったのだ。
「いい生き様とか・・・・そんなので言葉を言う権利は決まるものなのか?まぁ・・・・確かに、俺なんかがこんな言葉を言ったって、単なる綺麗ごとにしか聞こえないかもしれないな。でも、これだけは言っとくぞ」
神羅はそこで一端言葉を切ると、大きく息を吐いた後、しっかりとした目で優羅を見た。
「復讐の鬼にならないことだ。復讐の鬼となって果てるのは、悲しいものだからな」
そう言った神羅の目は、今までの鋭さがなくなり、悲しそうな色をしていた。
「・・・・その言い方、まるで、自分が一度経験したとでも言いたげな言葉だが・・・・?」
「それは、あんたに言う必要はない」
「そうか・・・・では、もう時間がない。地獄監獄を消滅させる」
優羅は再びその話題を持ち出すと、腕を振り上げた。
「まっ・・・・」
「終わりだな」
優羅はそう言って微笑むと、腕を振り下ろした。その途端、神羅の体が宙に浮き、同時に目を明けていられないほどの光りに包まれた。
俺は、とっさにマントで顔を覆ったが、頭がクラクラするし、目がチカチカしている。
しばらくすると、やっと光りが納まった為、何とか当たりを見渡すが、さっきと何も変わっていない。いや、目の前にいたはずの神羅がいなくなっていた。
「おいっ!神羅はどこに行ったんだよ!」
「そんなに慌てないで下さい。彼には、一足先にここから出てもらっただけですので」
「ここを消滅させると言うのは本気なのか?そもそも、神羅をどうやって移動させたんだ?」
「まずは落ち着いて下さい」
「・・・・はぁ」
俺は深いため息をつくと、再び優羅の方を見やった時、異変に気づいた。
「おい、お前・・・・」
「はい?私が何か?」
「体が元の大きさに戻りかけてるぞ!」
「えっ?」
優羅は、慌てて自分の体を見下ろしたが、既に元の体に戻っており、ため息をついていた。
「まさか、こんなにも早く元の姿に戻ってしまうなんて・・・・」
「どうするんだ?」
「・・・・実を言うと、もう、薬はないんですよね」
「と言うことは?」
「貴方の刀を借りるしかないと言うことです」
「それじゃあ、俺はどうするんだよ?」
「・・・・」
優羅はそこで黙り込み、力のない笑みを浮かべた。それを見て、俺はため息をつくと、刀を優羅に渡した。
「助かります、まだ、私にはやらなくちゃいけないことがあるので、よかったです」
「やらなくちゃいけないこと?」
「この牢獄内にいる者全てを、地獄監獄から外へと飛ばすことですよ」
「・・・・やっぱり、そうだよな」
「当たり前じゃないですか。確かに、警備員はムカつきますが、囚人達は助けたい。しかし、警備員を残して囚人を助けると言うことは出来ないので、仕方なく、警備員も連れて行くんですよ」
「そうか。俺はどうすればいいんだ?」
「・・・・とりあえず、貴方も先に行ってて下さい。では!」
「おいっ!」
俺は、まだ聞きたいことがあったのだが、優羅に勝手にワープを使われて、そのまま地獄監獄からどこかへ飛ばされた。