癖と言うものは、中々本人は気づかないものです
俺が座り込んでから二十分近く経った時、やっと優羅から通信が入った。
「今、彼と別れました。彼には地図を渡してあるので、それのとおりに進んでくれれば大丈夫だと思うのですが、彼とあの地図の相性は悪そうですので、貴方が助けてあげて下さい」
「・・・・相性?」
「はい、あの地図は普通の地図じゃないんですよ。一番似ている人間界の代物と言えば・・・・カーナビですかね?」
「・・・・」
俺は、その、「かーなび」と言うものを知らなかった。しかし、それを言ったら絶対に馬鹿にされる為、絶対にわからないとは言わなかった。
「まぁ・・・・その様子だと、知らないようですが、説明いたしましょうか?」
「・・・・俺がいつ、カーナビを知らないと言った?」
「言ってはいませんよ。しかし、貴方の表情を見れば、一目瞭然です」
そう言われて、俺は慌てて下を向いた。わからないような表情をしたと言うのか?いや、俺はそんなことをした覚えはないぞ。だが、それなら、どうしてこいつにバレたんだ・・・・。
「どうしてバレたのか、わからないようですね」
「何で、俺の心が一々わかるんだっ!」
「とりあえず言っておきますと、私がカーナビと言う言葉を話した時に、貴方の眉間に一瞬シワが寄りました。今までのことをまとめると、貴方は自分の知らない単語が出て来ると、眉間にシワが寄る癖があるようですね。それで、知らないとわかりました」
「・・・・そんなことしてないぞ」
「本人は気づかないのが癖と言うんですよ」
俺の言葉は全て跳ね返され、なんとも言えない気持ちになったが、最終的には知っていると言う素振りをするのをやめて、素直にカーナビの意味を教えてもらった。
「なるほどな・・・・」
「はい、音声で目的地への道順を教えてくれるんです」
「だが、それと相性と言うのは関係ないんじゃないか?」
「あの地図とカーナビの違いは、会話が出来るか出来ないかなんですよ。カーナビの場合は、目的地への案内をすることが目的のものなのですが、あの地図は、一人旅が寂しい人用に作られた音声機能付きの地図で、会話が出来るんです。それ故に、地図にも性格が搭載されていて、それによって言動パターンが異なるのですが、私が思うに、あの地図とあの方の相性は悪いと思うんですよね」
「・・・・じゃあ、なんでお前は、その性格の地図をあいつに渡したんだよ?」
「そうしないと、道に迷わないで、貴方の出番がなくなるじゃないですか。だから、あえて貴方の出番があるように、相性の悪い性格の地図を渡したのですよ」
それを聞いて、こいつは俺のことも少しは考えてくれていることを知って、何となくホッとした。
「さぁ、と言うことで、行って来て下さい、私は目的地で待ってます。あっ、これは返して下さいね」
そう言って、優羅は俺から便利な機械を取り上げると、さっさと走って行ってしまう。
「あっ、おいっ!待て!それがなかったら、俺はどうすればいいんだよ?神羅の居場所すらわからないぞ!」
「それは、私が教えます。なので、早く進んで下さい!彼なら、このまま真っ直ぐ歩いて行きましたよ」
「そうは言ってもな、わかりずらいだろ?」
「とりあえず、彼と同じ道を走っていいですよ。途中で私が裏道を教えますので」
「・・・・わかったよ」
これは、何を言っても渡すつもりはないと見て、俺は仕方なく諦め、通路に出ると、優羅の言う通りに走り出した。