ピンチ到来
しかし、そんなことを言葉で言えない為、とても歯がゆい思いをしていたのだが、神羅の仲間が、俺のその思いを感じとったかのように話し出した。
「わからない・・・・そうだとしても、お前の口から聞いてみたい。それが本当の意思なのであれば、躊躇わずに言えるはずだからな。お前は、ここに閉じ込められた奴を救う為に、危険なこの場所から出ないのか?」
「・・・・確かに、ここは危険だよな。今までは、族長を助けると言う目的があったから、ここまでギリギリ来れた。だが、もう、そこまで漠然とした目的はないから、これからの難を乗り越えられるかわからない。ただ、やれるだけやってみたいと思う。もう、あんな思いをする人を見たくはない」
あんな思いと言うのがよくはわからないが、その言葉を発している神羅の表情を見て、俺は、とても真剣なのだと言うことがわかった。
「・・・・そうか。なら、俺も協力しよう。お前もそうだよな?」
神羅の本気さが伝わったのか、神羅の仲間の一人が、もう一人の仲間に話しかける。
「私はついて行くぞ。助けてもらったのだからな」
「・・・・それだけか?」
「・・・・まぁ、惚れた部分もあるな」
俺は、その言葉を聞いた時、思わずバランスを崩して、床に倒れこみそうになった。優羅も驚いているようで、目を丸くして、俺の顔を見ている。
「おい、もしかして、あいつ・・・・」
「そうかもしれませんね、まさか、ここで大胆告白とは・・・・。盗み聞きをして申し訳ない気持ちが一杯で・・・・」
俺は、気づいてボケているのか、それとも普通に気づかないでボケているのかわからないが、とりあえず、優羅の頭を叩くと、常識と言うことを教えた。
「おい、よく考えろ。あいつは男で、神羅も男だ。成り立つ訳がない」
「それがですね、結構そう言う特殊なカップルが成立することもあるようですよ。私達男同士のようなカップルが」
俺は、そう言われた途端、自然と寒気がして、優羅から離れる。今、「私達男同士のような」と言ったが、私達と言わないでもらいたい。
「おい、お前にそう言う趣味があるのは自由だが、俺を勝手に巻き込むな!俺は、そんな異種じゃない」
「そう言う言い方はいけませんよ、差別じゃないですか」
「違う、そう言う意味じゃ・・・・!!」
俺は、感情が高ぶり過ぎたのか、少し声を大きく荒げ過ぎた。俺は、優羅に口を塞がれる前に、自分で口を塞ぐと、ゆっくりと影から神羅達の様子を伺う。
すると、少しいぶかしそうな表情をしていたが、そこまで気にしていないようだ。
俺は、大きく息を吐くと、欠伸をした。一安心したら、眠くなって来たようだ。しかし、そんな気の緩みも束の間、突然、神羅が何者かの気配を感じ、仲間にしゃべることをやめさせた時は、バレてしまったかと思った。
「誰か来るぞ!」
「どうしたんだ?」
「・・・・誰かが来たんだ。これが敵だったら、俺達は終わりだな」
「とは、どう言うことなんだ?」
「ここを閉められたら、俺達は出られない。ここは、外側からじゃないと鍵を閉めることも開けることも出来ないんだ」
「・・・・マジかよ。どうするんだよ?」
「せっかくやる気を出したところだったのによ。全く・・・・」
神羅達の言葉に、俺達の意識も研ぎ澄まされる。敵か味方。どちらにしても、俺達は見つかってはいけない。見つかったら大騒ぎになるはずだ。
そんなことを思いながら隠れていると、神羅達三人が、俺達の直ぐ隣に隠れている為、俺達は、心臓が止まるかと思った。神羅達が左を向けば、俺達の姿は絶対的に見えるだろう。
俺は、優羅の顔をうかがったが、優羅は引きつった表情を浮かべるだけで、何をする訳でもなかった。
しばらく、そんな緊迫した空気が続いた後、全開に開け放たれている入り口に影が差して、誰かが立っていることがわかった。