文化祭は大変
やるからには勝ちたいと思う。しかし、何をすれば勝てるのかわからない。
そもそも、こんなことで、勝てるのか?せめて、役割が逆ならまだしも、女装で勝てる気なんかさらさらしない・・・・。
「凛、どうすれば勝てるんだ?」
「・・・・わからない。でも、頑張るしかない!根性で!!」
「客の前ではそんなこと言うなよ?変な噂でも立てられたらイチコロだ」
「ああ、亜修羅。やっと本気になってくれたんだね?」
「少し、偵察に行って来る」
文化祭が始まり、大勢の客が行き来している。その中に、一際女の長い列が出来ているところがあった。きっと、そこが凛の言っていた強敵のクラス。あいつ等のせいで、俺が女装をしなければならなくなったクラス。
そう思うと、物凄くムカついて来たが、何とか感情を抑える。暴れたら、失格だと凛に釘を刺された為、何とか押さえる。
こっそりとドアの外から覗いててみると、みな、さほどかっこよくはないが、礼儀は正しい。よし、盗めるだけ盗もう。と言っても、盗めるようなものはない。ただ、礼儀正しいと言うだけだ。
その他にも色んなことを考えていると、肩を叩かれた。
「ご婦人、メイド喫茶はあちらですよ?」
「誰が婦人だ!俺は男だ!!」
そこにいたのは、中にいる奴とはあまりにも違いすぎるほどかっこいい奴だったが、俺は男だから、そんな奴にフニャフニャなるかよ。
「ああ、ごめんなさい。あそこは女装喫茶でしたね」
そいつは、顔はいいが、性格は最悪らしい。そう言う奴が一番ムカつくんだ。大体そうだ。顔がよければ性格が悪い。性格がよければ顔はそんなでもない。均等に作られていないものだ。
「お前のクラスには俺たちが必ず勝つ。お前らに一位の座を譲ったら、一位の名が汚れる」
「そんなことが出来るんですか?女装喫茶で」
女装喫茶のところを強調されて言われ、こいつの首を絞めてやろうかと思ったが、何とか持ちこたえると、ドスを聞かせた声で、静かに言った。
「お前等が校長に言いつけたんだろ?そんなせこいことまでしてやって、もし、一位になれなかったら、さぞかし恥ずかしいだろうな。でもな、俺はお前等に同情するつもりはない。だから、一位になる。覚悟しておけよ」
男の襟を掴んで引き寄せてそう言うと、突き放すように手を離した。
その動作に思い切りうろたえたようで、顔を引きつらせている。
それを見ると、そのまま、クルリと向きを変えてクラスに戻る。あいつ、妖怪だったら殺してやりたい。いや、殺している・・・・。しかし、ある程度脅しておいたから、少しは怒りが収まった。
「亜修羅、そんなに殺気だってたら、来るお客さんも来なくなっちゃうよ」
「わかってる。あいつには死んでも勝つ。そう決めていただけだ」
「そんな凄んだ声で対応したら、怖がられちゃうよ?それに、口調も怖いし・・・・」
「大丈夫よ、気にしないで。妖怪だったら野郎を殺ってたけど、人間だからそこまではしないわ」
「・・・・声と口調が変わっただけで、全然言ってること怖いんだけど」
「大丈夫だ、気にすんな。俺は勝つと決めた相手には必ず勝つって決めてるんだ」
「うん、頑張って」
その時、お客が来た。俺が動こうとすると、それを手で制する凛。そして、俺に向かってウィンクした後、入って来たお客を対応し始めた。
さっきのウィンクは、僕の動きを見ててと言いたげだったから、凛のことはしっかりと見た。
それから戻って来る時、親指を突き出した。あまり意味がわからず、戸惑っていると、凛が話した。
「一番高い商品を頼ませた」
「どうやって?」
「笑顔で進めた。そしたら、って」
「そうか、俺もやってみるか」
それからしばらくしてから、多くの客が来たが、メイドが女じゃなくてブーブー言っている。しかし、俺らには何も言わずにいる。きっと女と間違えられてるんだ。
だから、女に接客を任せておけばよかったのだ。普通、女装なんて思わないだろうからな・・・・。
しつこいだろうが、しみじみ思ってしまう。「役割が逆だったら」と・・・・。
「何にしましょうか?」
貼り付けの笑顔で聞く。それから、声色を変えて口調も丁寧語に。勝つためには、これしか方法がないんだ。
「・・・・オススメとかある?」
しめた!と思い、出来るだけ自然に、尚且つ確実的な方法で勧めると、それを頼んでくれた。よし、このまま順調に行ければ・・・・。
と喜んでいたのもつかの間。文句を言われていた男達がついにキレて、お客に向かって暴力を振るった。
「おい、ま・・・・」
そのせいで、今まで並んでいた客がめっきり減ってしまった。
クソッ、どうすればいいんだ。暴力を振るった奴は、まずいと思ったのか、顔を下に向けている。
「どんまい、しょうがないよ。あんなに愚痴言われたらさ。次から頑張ればいいよ」
「ああ、すまないな、みんな」
最初はそいつが許せなかったが、本気で反省しているようで、怒りも自然と止んだ。よく考えてみると、何も言われない方が男として恥だと思う。女と間違われているのだから・・・・。
最初の一時間は繁盛していたのに、残りの三時間は誰一人お客が来なかった。
「ああ、このままじゃ負けるな。あいつにあんなにドスを聞かせたのに・・・・」
「何でそう思うのさ?」
「隣のクラスは、大繁盛じゃないか。なのに俺たちは全然ダメだ」
「ドスって?」
「隣のクラスの奴がいただろ?生意気な奴。あいつに凄んでやったんだ」
「そうしたら?」
「ビビってた」
「まぁ、亜修羅の脅しは凄いからね」
お客が座るテーブルに、誰もいないから座って昼飯を食べる。・・・・何かいい方法はないのか?向こうと同じくらいになるようなこと。
「なぁ、こっちも、メイドといけめん?の奴両方に分けてやったらどうだ?」
「そんなこと言ったって・・・・」
「やるからには勝つのが勝負だろう!初めから負けてると思ってやった勝負には負けるんだ!いくら可能性がなくても、勝ってると思えば奇跡的に勝つことが出来るかもしれないんだぞ!!」
俺の気迫に一気に押された一同。ただ一人、凛だけが動じない。そう言えば、学校に来てからドジを一回も踏んでないな。逆に、頼りにされて、リーダー的な存在だ。じゃあ、なぜ、家ではあんなに頼りなくて、金魚のフンみたいにベタベタくっついて来るんだ?
「僕はいいと思う。ちなみに、僕はイケメンの方がいい。と言うか、いっそのこと女の子をメイドにして、残った男の子で裏を取り繕うって言うのはどうかな?」
「いいな、そのアイディア。早速女子達に知らせてくるぜ」
一人の男が立ち上がり、教室を出て行った。
その様子を見ながら、普通はそうするだろうと言う言葉が出そうになるが、口を塞いで我慢した。もう、嘘をついたっていい。メイドを女にするだけなんだ。やっていることに変わりはない。大丈夫だ。
「亜修羅、どうする?」
「俺はもちろん表にいるぞ。裏で地味に働くなんて、性に合わない」
「だよね?じゃあ、ちょっと服を変えるから、みんな、ついて来て!」
凛の後に続く、メイド服を来た男達。なんだか変な光景だが、はたから見ると面白いかもしれない。
どこから用意したのか、凛が燕尾服を全員に渡す。俺は、それに着替えて、化粧を落とすと、やっと落ち着いた気持ちになった。やっぱり、足元がスースーするのは居心地が悪い。なにより、これで男としての自覚を取り戻したような気分だ。
「よっし、もう直ぐ休み時間が終わるよ。気を引き締めて行こうね?」
「おう!!」
休み時間が終わり、また客がうろつき出した。・・・・どうやったら来てもらえるだろうか・・・・。
「なぁ、来るかな?客」
「大丈夫だよ。そんなに気にしなくていいって。飯田のせいじゃないんだから」
「ああ、すまねぇな」
その時、廊下から客が顔を出した。メイド服と燕尾服を着ている生徒がいて、戸惑っているようだったけど、凛がいち早くそれに気づいて丁寧に教えた。
すると、女達は凛にコロッとなって入って来た。こいつ、学校とかでは確かにかっこいいと言えるかもしれない。家ではかなりの別人だが。
そんなことを思っていると、また次の奴が戸惑い顔で立っている。今度は、俺が出て行った。勝つと言う執念があったから。
「ここは、メイド喫茶といけめん?喫茶の両方を運営しております。お客様はどちらにいたしますか?」
今度は貼り付けじゃなく、本気で頑張った笑顔。すると、やはりこちらもコロッと落ちた。そのままテーブルに座らせる。廊下の方から、今度は男の声が聞こえた。すると、メイド服を着た女達が出て行き、無事つれて来た。
「何にいたしますか?」
「・・・・オススメを持って来て下さい」
俺は思った。オススメを頼んでくれた人には、手品かなんかを見せればいいんじゃないかと。
「オススメを頼んでいただいた方には、手品をお見せします」
何となく、思いつきでやった人間では出来ないことを、女達はキャーキャー言って喜んだ。
と言うのも、人間が見えない素早さで机の上の花を取り、プレゼントしただけの、いたって簡単なこと。
頼んでもらったのを裏に伝えるために、たまたま凛の後ろを通り過ぎた。
「中々やるじゃん、本当に勝つためには手段を選ばないね?」
「凛もやったらどうだ?」
「うん、実践しみる」
そして、オススメを選んだ客は何とか帰った。めんどくさいと思った。しかし、勝ちたい為に頑張った。それが、幸を呼んだのか、客足がかなり増えた。
今では、教室の外を列が並んでいる状態だ。これなら勝てるかもしれない。
しかし、またハプニングが起こった。列に並んでいたお客が早くしろと言い出したのだ。確かに、遅い。
「おい、凛。どうする?」
「・・・・ここは、亜修羅に任せるよ。もし、マジックか何かで惑わせなかったら、最悪は、妖狐の姿になっちゃえば?」
「人のことだと思って軽く言うんじゃない。それに、おもちゃじゃないんだぞ?」
仕方なしに廊下に出てマジックを行う。最初のうちはそれでしのげていたが、やがて飽きられて来て、とうとう、俺は妖狐にならざる終えなくなってしまった。そこまでして止めなくてはいけないのだろうか?これは、重大なことなのに・・・・。
俺が迷っている間、並んでいる奴らはジッとこっちを見て来る。
しかし、もし、この中に妖怪がいたら、ただ事じゃすまないぞ。それこそ、大惨事・・・・。
「修、ちょっと・・・・」
凛が影で手招きしている。策をくれるのか。それとも、ただ呼んだだけなのか。最初はわからなかったけれど、ただ一つ言えることは、凛の策は俺に変な印象を与えると言うものだけだった。
「あのさ、亜修羅って炎を使うんだよね?だったら、それを上手く使うとか出来ない?」
「それを言うなら、お前が冥道を開けばいいだろう」
「無理無理。冥道を開くと、その冥道に当たった部分は全部削られちゃうから。屋外でやらないと」
「俺だって、このままじゃ出来ないぞ」
「だから、妖狐になって!」
「だから、人事だと思って簡単に言うなって・・・・」
「大丈夫、僕が説明してあげる。亜修羅は・・・・上から降ってくればいい」
雨じゃないから降ることなんて出来ないと言いたかった。しかし、それは当たり前過ぎる。もしかしたら、天井にくっついて、合図があったら手を離して落ちるみたいなことをしろって言うのか??
「そう言うこと。じゃあ、早速」
凛は、俺の承諾も得ず、勝手に話し出した。しかし、あいつはとことんバカだ。俺が妖怪だって言っている。
すると、並んでいる奴らは笑った。きっと冗談だと思っているらしい。本当の妖怪が目の前にいるとも知らずに。
俺は、仕方なく妖狐の姿に戻った。妖狐の姿は見せものじゃないのに。なぜ、何もない今、妖狐に戻らなくてはいけないのか。
凛の言う通り、天井に登って、上から下の様子を伺う。今のところ、人間だけがいるらしい。誰も襲って来ない。
ジッと下を見てると、凛が後ろに手を回し、何か変な動きをした。あんまりよくわからないが、取りあえず下りろと言う合図かと思い、飛び降りた。
突然上から飛び降りて来た人物に驚くお客。しかし、それよりも何よりも、獣耳が驚いたらしい。
「さっきの言葉、通じた?」
「後ろで動かしてた手か?」
「手話だよ、手話。手話で、『来て!』って合図したんだから。降りて来たから手話をわかってたのかと思ってたけど、わからなかったんだね」
「うるさい、わからなくたっていいだろう」
「まぁいいや。じゃあ、後は任せた!」
「おい!」
凛は、来た時同様突然いなくなった。妖狐の姿にさせておいて、任せたはないだろう・・・・。これからどうすればいいんだ?あいつは、俺に墓穴を掘らせたかったのか?
「耳、触ってみてもいいですか?」
一人の女が恥ずかしそうに言った。かなり嫌だったが、少しくらいいいかなと思って触らせた。
「何か、本物みたいですね」
「・・・・」
すると、他の奴らまで触りたいと言い出した為、溜まったものじゃない。そのおかげで、順番待ちに文句を言う奴はいなくなったが、しばらくの間、耳が痛くなるのは確かだ。
やっと一段落付き、落ち着いていると、凛がやって来た。のこのことやって来たのだ。
「どうだった?」
「どうだったもこうだったも、何も言えない。耳が痛い」
「次は僕が変わるから」
「ああ、そうしてくれ」
「あっ、お客さんが来た!亜修羅は中に入って!」
凛に背中を押され、ヨロヨロしながらも、人間の姿になった。メイド服を着させられ、化粧をさせられ、おまけに妖狐の姿にさせられて耳を引っ張られ、俺は、心身ともに疲れきっていた。