準備の途中で・・・・
「さて、大丈夫ですか?」
「ああ、一応は大丈夫だが、もう少し、縄の締め付けを緩く出来なかったのか?おかげで、腹が痛むんだが」
「まぁ、それぐらいの代償があってもいいでしょう?死ぬなんて、もっと痛いんですから。それぐらい、マシだと思って下さい」
「・・・・お前、ドSだな」
「そんなことないです。私は優しいですよ」
そう言って笑みを浮かべる優羅は、とても優しい奴には見えなかった。
俺は、今さっきまで、死にそうになっていた。しかし、それを優羅が助けてくれたのだが、巻きついたロープが腹に食い込んで、違う意味で死にそうになったところだった。
なんとか無事に、優羅のいる地面に立つことが出来たが、もしあの時、優羅が俺を助けなかったら、あのまま死んでいたんだろうなと思う。
「まぁ・・・・何はともあれ、助けてもらったんだ。一応礼は言っておく」
「そうですよ、素直になって下さい」
「・・・・」
「どうしたんですか?お礼を言っておくんじゃなかったんですか?」
「お前のその言葉がなかったら、俺は素直に礼を言えたんだ!だが、お前が変に畳み掛けるから、なんか、嫌になったんだよ!それだけだ!!」
俺は、そう吐き捨てるように言うと、自分の部屋へと足を進める。この監獄の裏通路は全部制覇した為、もう、自分の居場所さえわかれば、部屋への道は優羅の後をついて行かなくてもわかるようになっていた。
「全く、自分で道がわかるようになったら、勝手にさっさと行ってしまうんですから、困ったものですよ」
「道がわかった以上、お前の後をついて行かなくてもいいからな。それに、もうじきお別れなんだ。いつまでも仲良くしてる訳にはいかないだろ?お互い、ここから脱出したら、それぞれ別の道を進むんだ」
俺の言葉に、今まで微笑みが浮かんでいた優羅の顔から笑みが消えて、真顔になった。
「まぁ・・・・確かにそうですね。こんなに馴れ馴れしくしている事自体がおかしいんですよね」
そう言った優羅の表情が気になるが、俺は、何も言わずに歩き出した。
「さて、ギリギリ間に合いましたね。そろそろ警備員が来る頃です。準備をしましょうか」
「そう言えば、あいつらはどうなったんだ?」
「ああ、護衛の方の様子ですか?それはわかりません」
「でもお前、この前、わかるみたいなことを・・・・」
「まぁ・・・・多分、彼等は貴方を救出する作戦を遂行中でしょうね。彼等がここにたどり着くまでに、私達はここから出なきゃいけませんから、急ぎましょう!」
「あっ、ああ」
俺は、とりあえず、部屋の中に入って正面の壁に骸骨を立てかけると、顔がうつむくような感じに座らせ、優羅から渡された金髪を頭に被せるのだが、とても、俺の死体とは思えない。まず、髪の色が、全然違うのだ。
「おい、俺の髪はこんな色じゃないんだが・・・・」
「すみません、私の薬品で染めたところ、この色が一番貴方の髪の色に近かったので、使わせてもらいました」
「これ、金髪って言うより、ブロンドに近いんじゃないか?」
「大丈夫ですよ、暗いんですから、色の違いなんか気づかないですよ」
「お前、細かいところと大雑把なところの差が激し過ぎるよな」
俺がそう言うけれど、優羅はその言葉を完全に無視して、自分の世界に入り込んでいる。
「その次は、この部屋に、幻覚を見せる薬品を撒くんだよな?」
「ええ・・・・でも、それは今準備中で・・・・」
俺達がそこまで話していた時、突然、今まで固く閉ざされていた扉が開き、光りが差して来た為、俺達は、とっさに影に隠れた。
「なんなんだ、警備員がこんなに早く来るなんて言われてないぞ!しかも、薬品巻き忘れてるじゃないか!」
「こればかりは仕方ないじゃないですか。私も予測しかねましたので。とりあえず、来てしまったものは仕方ないです。静かにしましょう」
俺達は、ギリギリ聞こえる小声でそう話しながら、影から顔を覗かせた時、部屋に入って来たのが警備員じゃないことを知った。それでは誰かと言うと、この前見た、みすぼらしい服を着ている奴だった。