人のことを必要以上に探るのは、あんまりいいことじゃない
それにしても、こいつは半ば身勝手なところが多過ぎる。だから、頭を叩くぐらい、別に構わないだろうと思った。
「一応言って置きますが、私の方が、貴方よりも年上なんですよ?」
「ああ、わかってる。ところで、いくつなんだ?」
「・・・・それを聞きますか?全く、無神経な人ですね」
最も無神経な奴にそうサラッと言われて、俺は、今まで以上の怒りを覚えたが、確かに、少し無神経な部分もあるなと思った。
「じゃあ、教えなくていい」
「でも、そうすると、貴方は絶対影で文句を言うはずなので、言って置きますが、私は二十四です」
「・・・・案外、年とってるんだな」
俺の呟きに、優羅は一瞬足を止めたが、また直ぐに歩き出した。その手には、さっきいじっていた機械を持っていた。
「・・・・おい、何してんだよ」
「貴方の個人データを朗読します。名前、亜修羅。種類、妖狐。年齢、十六歳、家族構成、父親は健在しているが、命が狙われている。母親は既に他界している。人間界に来るきっかけは、父親の事情。人間界では普通の高校一年生として生活し、その整った顔とスタイルの良さで、女子にはモテモテ。そんな彼の初恋は・・・・」
そこまで言われた時、俺はとっさに優羅の背中にタックルをして突き飛ばし、それ以上言葉を続けさせないようにした。
いつの間に、こんな大量の俺のデータを調べたのかわからないが、こいつはとても恐ろしい奴だ。俺の初恋の時まで知っているとは・・・・。いや、知らなくて、ふざけて言ったのかもしれないが、もし、本当にわかっていて、それを朗読されたら、俺は恥ずかしくて、しばらく顔が赤くなるだろう。だからそれを防ぐ為に、ギリギリ言葉を続けさせないことにしたんだ。
「・・・・なんなんだ、今のデータは?嫌がらせか?」
「いえ、そう言う訳じゃないですよ。研究所の仲間に、貴方のことを調べて、そのデータを送ってもらったんです。ちなみに、初恋と言いましたが、そのデータは現在解析中だそうで・・・・」
そう言ってニヤニヤ笑う優羅を、俺は思い切り睨みつけてやったが、全く相手にされなかった。
「あっ、解析結果が送られて来ました。初恋は・・・・」
「やっ、やめろ!」
俺は、再び優羅にタックルして、優羅の手からその機械を奪い取ると、慌ててそのデータを消去した。
ちなみに、その時に初恋の歳のデータを見たが・・・・合っていた。俺が初恋をした年齢までもが、データ化されていたのだ。
俺はため息をついて、後ろから抗議を言いながら歩いて来る優羅を黙らせると、研究所の場所を調べさせる。
「一応、通路として使われていない部分とは言え、声が聞こえないことはないだろ?静かにしろよ」
「・・・・貴方が叫んだんじゃないですか」
「叫んでない。元はと言えば、お前が悪かったんだ。俺の個人データを朗読するような真似をして・・・・普通、怒られることがわかるだろうに」
「いえ、大元は、貴方が私の年齢を馬鹿にすることから始まったんです。よって、貴方が悪いんですよ」
「おい、減らず口叩いてないで、早く調べろよ」
「少し待って下さいよ、データを受け取るのに、少し時間がかかるんですよ」
「ったく、めんどくさい機械だな」
俺がそうボソッと言うと、優羅は心外そうな顔をして、自分が使っている機械の凄さを説明し始めた。その説明は二十分にも及び、俺はその言葉のほとんどを聞き流した。
「・・・・と言う訳です」
「で、お前の言いたいことはそれだけか?」
「・・・・貴方には、何を言っても無駄のようですね。もういいです。諦めました。さぁ、データも取得出来たことですし、研究所へ行きましょうか」
「向かっていたんじゃないのか?」
「ええ、向かっていましたが、途中で立ち止まったでしょう?あの場所からわからなくなったんです」
「・・・・そうか。じゃあ、もうわかるんだな」
「ええ、行きましょう」
「しかし、行って、何をするんだ?」
「研究所には、色んな薬品があると思うので、戦う前の準備と、貴方の死体と思わせる人形を持って来るんです」
「なるほどな」
「理解していただけましたか?」
「まあな。俺だって、物分りの悪い、頭の固い奴じゃないんだ。説明して、納得すれば、言うことを聞くさ」
俺がそう言うと、優羅は面白そうに笑ったが、直ぐに真顔に戻ると、目の前にある扉を開けて、中に入った。