実験台か、薄情者か
「ところで、お前と侵入者はグルなのか?」
「いえ、グルではないですが、その者の顔は見たことがあります。なんと言うか・・・・子供らしい大人のような感じの者で、赤い髪をしてましたね。仲間と一緒にここに侵入したみたいで、数人の者と行動を共にしていましたよ」
俺はそう言われて、体が自然と反応するのがわかった。あいつだ・・・・。
「そいつ、族長がどうこうとか言ってなかったか?」
「そこまではわからないのですが、かなり荒っぽい方法だったので、性格の荒い方だとは思いますよ」
「あいつ・・・・」
俺の呟きが聞こえたのか、優羅がこちらを振り返る。
「もしかして、お知り合いですか?」
「そうかはわからないが、きっとそうだろうな。そいつな、俺の護衛で、怪我してたはずなんだが・・・・」
「そうなのか。しかし、怪我をしている素振りは全く見せていなかったですよ?既に治った後だったのではないですか?」
「・・・・かもな」
「なるほど・・・・では、少し、偵察に行ってみましょうか」
そう言って、優羅は立ち上がると、ポケットから何かを取り出して電源をつけ、しばらく何かをした後、それをしまい、立ち上がる。
まだ説明していなかったが、俺達は今、牢屋の中に閉じ込められている。いや、表現がおかしいな。閉じ込められているふりをしている。
本当は、外に出て色々したいところだが、優羅が俺の牢屋を待機場所使わせてくれと言って来た為、外に出ない時は、二人で牢屋にいる訳だ。まぁ、定期的に来る警備員をかわすのは簡単なので、そこまで苦なくやって来たのだ。
俺達が脱獄を計画していることを相手に悟られてはいけない。だから、警備員が見回りに来る時間帯には、必ず、自ら牢屋に戻って、鍵を閉める。そうすれば、相手はずっと俺がここにいると思うから、バレない。それが優羅の作戦らしい。
「では、警備員もまだ来ないようですし、その、護衛の方の様子を見に行きましょう?」
「そんなこと言ったって、今、あいつがどこにいるかなんてわからないだろ?」
「いえ、大丈夫ですよ。彼の居場所は把握しています。発信機をつけておいたので、位置確認は大丈夫です」
「・・・・しかし、最新の注意を払って様子を見に行っても、もしも、何かがあって、俺の姿が見えるようなことがあったらどうするんだ?あいつ、これでもかなり無茶なことをして来たのに、もっと無茶なことはやりかねない」
俺がそう言うと、優羅はしばらく考え込んだ後、懐から、一本の薬品入り試験管を取り出した。そして、俺にそれを渡すと、じっと見て来る。
俺は、何をしていいのかわからず、その、澄んだピンク色の薬品と、優羅の顔を交互に眺めていたが、やがて、しびれを切らしたのか、優羅が一言言った。
「それを飲んで下さい」
「断る」
飲めと言われた瞬間、俺は、とっさに断っていた。こんな訳のわからない薬品を飲むような馬鹿はいない。しかも、この薬を飲んだ後の効果すらも教えられていないのに、この薬を飲むような奴は、勇者と言うに等しいだろう。
「なぜですか?貴方が不安だと言うので姿を変えさせてあげようと思っただけなのですが・・・・」
「それって、どう言う意味だよ?変な姿に変えるんじゃないだろうな?」
「それはわかりません。その薬は実験途中の薬なので、これを期に試していただこうかと」
そう言って、二コリと微笑む優羅の顔が心底怖いと思ったのは、今が初めてじゃない。が、今が一番嫌な気分だった。
「ふざけるなよ?俺が実験台になれと?そんなのやってられるかよ」
そう言って、俺が試験管を床に投げつけようとした途端、さっと試験管を奪い取られて、優羅を睨みつける。
「あのままでは危険ですねぇ、捕まってしまいます」
「・・・・は?」
「貴方の護衛の方たちの行動です。荒々し過ぎて危険なんですよ。だから、警備員に捕まるのも時間の問題かと・・・・」
「・・・・何が言いたい?」
「言葉では言っていないものの、貴方、実は、その護衛の方のことをとても心配してらっしゃるのでしょう?本当は助けたいと思ってる。でも、私が納得するはずも無い。だから言い出さなかった。しかし、この薬の実験台になってくれれば、あの方の補助をすることを認めてもいいですよ。これならどうですか?」
「・・・・交換条件か」
「悪くないでしょう?」
俺は、大きくため息をついた。悪くないも何も、まさか、心を完全に読まれているとは。こいつ、心理を読み取ると言うのにも特化しているらしい。こいつは恐ろしいぞ。