地獄監獄への侵入者
「遂にお前の処刑日が決まったぞ。来週の日曜日だ」
「ふんっ、処刑でもなんでもすればいい。
俺は、お前らみたいな軟な体じゃないことだけは覚えとけ」
「確かにな、一週間にしてあの傷をほぼ回復させているその生命力。
研究に使わせてもらいたいところだ」
「生憎だな。俺は、そこまで早いほうじゃない。むしろ、遅い方だ。
早い奴は、お前等が殺してしまったんだろ?そいつを研究すればよかったのにな」
「フンッ、今のうちに粋がっていろ。どうせ死ぬ時になったら、
お前は何も出来ない自分の無力さを思い知ることになるからな」
「・・・・どんな方法で殺そうって言うんだ?」
「・・・・まぁ、どっちみち、ここから出ることは出来ない。
なら、教えてやってもいいだろう。来い」
そいつは、俺に背中を向けてドアから出る。
こいつはきっと、素人なのだろう。普通、敵に背中を向ける馬鹿はいない。
まぁ、俺も襲うつもりもないけどな。背後から襲うなんて、一番醜いやり方だ。
そう言うやり方はしたくなかったのだ。
それに、一週間前までの体だったら到底無理なことだったが、
今の体調なら、両腕を使わなくたって、こいつぐらいの奴三十人は相手にすることが出来る。
警備員に連れられて歩いて行くと、この建物内の様子がわかった。
まるで、地獄の刑務所のようなイメージがあった。
そんな俺の心理を見抜いてか、聞いてもいないのに、警備員が口を開いた。
「ここの建物の名前は、『地獄監獄』と言う。
その名のとおり、ここは地獄だ。覚悟しておくといい。
ここの死刑は、普通の死刑とは全く違う。
ここで死んだ者は、絶対に天国にはいけない。直通で地獄へ飛ばされる。
だから、死んでからも尚、苦しむことになる。可哀相な奴だな、お前も。
まぁ、そこまで悪いことをしたと言う訳だ。
せいぜい大人しく死刑が実行されるのを待ってるんだな。
ここから脱出することは不可能だ。絶対に」
「・・・・余計な説明と補足をありがとうな。
残念だが、俺は、こんなところでくたばっている暇はないんだ。
絶対に脱出させてもらう。魔界が大変なことになっているんだ。
ここでこうやってのんびりと過ごしている時間ほど無駄なものはない」
「フンッ相変わらず威勢だけはいいみたいだけどな、
死刑執行場所を見たら、お前のその勢いも消えるかもな。ほら、ここだ」
そう言って開けられた扉の先にあったのは、なんと言うか・・・・大きな壁だった。
そこの高い部分に二つ、低い部分にも二つ鉄のようなものがあったので、
きっと、あれで手足を固定するのはわかった。
と言うことは、あそこに貼り付けにされると言う訳だな。
なんとなくそんな推理がついた。
俺は、そのまま歩いて行くけれど、物凄い熱さに思わず足が止まった。
何がここまで、この辺り一体の気温を上げているのかわからなかったが、
下を見下ろすと、その理由がわかった。
「あれは・・・・マグマか?」
「よくわかったな、そうだ。この下にある赤い液体は、まさにマグマだ。
ここに落とされたら、いくら炎に強いお前でも、一溜まりもないだろう」
「・・・・」
確かに、これは脅しじゃないようだ。自然と冷や汗が流れる。
いや、もしかしたら、暑いから汗が出ているのかも知れない。
・・・・いや、この際、こんなことは限りなくどうだっていい。
「お前の死刑実行は、このマグマに落とされることだ。骨さえも残らない。
そして、そのまま地獄まで沈んで行くんだ。
・・・・どうだ?これで死が怖くなっただろう?」
そいつは、俺の顔を覗きこんで来る。こいつは、あくまで俺をビビらせたいらしい。
どうしてそこまでビビらせようとするのか。
「悪いが・・・・俺は、地獄に落ちることも、命を失うことすらも怖くはない。
恐怖すら感じない。
なぜなら、俺は今まで沢山の者を殺して来た。
その時点で地獄に行くことは確定しているだろうし、それに、相手を殺すと言うことは、
自分も危ない目に遭うと言うことだ。つまり、今まで死と紙一重で生きて来た。
今更死ぬのが怖いとかなんて、言う訳ないだろ?」
俺がそう言って、警備員を見返してやると、
そいつは表情を歪めて、俺のことを突き落とそうとした。
しかし、そのギリギリ手前で、突然耳をつんざく様な大音量のサイレンが鳴り響いた。
それには、俺を突き落とそうとした警備員も顔を歪めて耳を塞いだ。
俺は、一瞬意識が遠のきかけたが、何とか意識を繋ぎとめると、
まだうるさく鳴っているサイレンから耳を守る為に耳を塞ぐ。
「くそっ、侵入者か・・・・」
警備員がそう呟いた時、通信が入って来た。
〔こちら、地獄監獄フロア4にいる者だが、侵入者を感知した。
ただちに上層部に戻り、援護をしてくれ〕
「了解」
警備員はそれだけ言うと、俺に何も言わずに歩き出す。俺は、自然と胸騒ぎを覚えた。
何がそうさせているのかはわからないが、胸騒ぎがする。
しかし、それと同時に、なんとも言えないワクワクとしたような感覚がした。
地獄と言われる監獄に侵入するような馬鹿だ。
何かをやらかしてくれるんじゃないかと言う気がした。
俺は、早足で歩き出す警備員の後について牢屋に戻ると、大きく息を吐いた。
なんだか、今までの最悪の毎日を覆すぐらいワクワクした気分になった。
こんな気分になったのは、いつ以来だろうか。