一段落つきました。
「で、今までのことを説明してくれないか?」
「修羅さんの口から聞いた方がいいと思うのですが・・・・
とりあえず、話しましょうか」
「ちょい待った。
それより、どうして族長のことを修羅って呼ぶんだ?族長の名前は亜修羅だろ?」
「亜修羅だと、色々面倒なんで、修羅さんと呼んでいるんです」
「面倒か??」
「私達神は、主に名前が二文字なんだ。
しかし、修羅さん・・・・いや、亜修羅さんは、三文字ですよね?
だから、修羅さんと短く切っているんです。
亜修さんとかよりはいいでしょう?」
そう言われると、確かにそうだ。修羅さんの方がしっくり来る。
しかし、亜修と言う名前もいいかも知れないと、ちょっとだけ思った。
「じゃなくてっ!」
「・・・・?」
「あっ、いや、気にしないでくれ。じゃあ、なんで性格を転換させてたんだ?」
「性格を転換・・・・?」
「それに、見た目だって、どうやって変えてたんだよ?」
「・・・・見た目を変えていたのは、私の薬です。
姿を変えないと、貴方の前に現れることが出来ないでしょう?
だから、姿を変えさせてくれって修羅さんに頼まれたんです。
姿を変えれば、自分だって気づかれずに貴方を助けることが出来るから。
そして、性格を変えたって言うのは、私の方に注意を向ける為です。
修羅さんの性格を私が演じて、私の性格を修羅さんが演じることで、
怪しいと思う矛先を私の方に向けた。
おかげで、少しおかしい部分にも気づかれずに済みましたから」
俺は、まんまと優羅の策にかかっていたようだ。
優羅の上手い演技のおかげで、俺は優羅を族長だと思い込み、
本当の族長を全く別の関係ない奴だと思っていたのだ。
そう聞かされると、自分の馬鹿さ加減にため息が出て来る。
しかし、それと同時に、心が温かくなるような気もした。
まさか、自分の姿を変えてまで、俺を助けようとしてくれていたのかと思うと、
不思議な気持ちになる。
あんなにニコニコ笑うようなキャラじゃない族長が、
バレないようにニコニコ笑ってボケをかまして、
俺が殴ってやりたいと思うほどに馬鹿な振りをしたのだ。
俺はあの時、優羅を殴らなくてよかったと心の底から思った。
もし、あの時俺が優羅を殴っていたら、族長を殴ってしまったことになる。
「そうか・・・・なるほど、では、重要な経緯を話してもらおうか?
どうしてお前らは会うことが出来たのか。
そしてなぜ、族長は生きてあの場から出られたのか・・・・」
「・・・・修羅さん、続きは貴方が話して下さいよ、起きてるんでしょう?」
そう言って、優羅は眠っているはずの族長の方に話しを振る。
俺は、族長は眠っているものだと思っていたが、
急にむっくりと起き上がった為、かなり驚いた。
「族長、起きてたのか?」
「いや、話を振られたんで起きたんだ。で、なんなんだ?」
「俺に、今までの経緯を教えてくれってことだ。教えてくれないか?」
「・・・・」
族長は大きくため息をつくと、話し出した。
俺は、内心ほっとしていた。優羅が実は俺だったと知った時、神羅は怒らなかった。
それが物凄く助かった。
しかし、どうも神羅の目の前にいるのは落ち着かない。
今まで姿を隠した形で目の前にいた為、素の姿で目の前にいるのがなんとも恥ずかしい。
しかも、プライバシーのかけらもない優羅が、俺の心理を勝手に言っ・・・・
いや、勝手に解釈をして話すから、神羅が変な勘違いをしている。
それには困ることしか出来なかった。
〔族長!〕
〔なっ、なんだよ・・・・〕
〔俺のこと、信頼しててくれたんだなっ!話は優羅から聞いたぜっ!〕
〔はぁ?何を言ってんだ・・・・〕
〔まさか、族長がそんな風に思ってくれてたとはな、嬉しい限りだぜ〕
そう嬉しそうに言う神羅の顔を見ていると、違うとは言えなくなってしまう。
それにまぁ、優羅の妄想とは言え、
思っていることは違う訳でもなく、そこまで合っている訳でもない。
だから、強く違うとも言えず、なんとも言えない苦しい状況であった。
「俺達、どこまで一緒にいたんだ?それがわからないと思い出せない」
「・・・・確か俺は、族長が城に入ったところから、族長がどうなったのかを知らない」
「マジかよ・・・・そんなに前から話すのか?」
「そりゃな、俺は、族長の護衛につき、
族長の周辺で起こった出来事を全て把握しておかねばならないのでな!」
そう言う神羅は、満面の笑みだった為、俺は深いため息をついた。
あの過程を全て話すのかと思うと、とても面倒になって来る。
とりあえず俺は、地獄監獄に閉じ込められるまでの過程を神羅に説明した。
神羅は興味ぶかそうに聞いていたが、凛に襲われたと言うと、
目を丸くしてブツブツ何かを言っていた。
が、自分達が話しかけた時には平気だったと言われて、今度は俺が驚くハメになった。
「あの時の凛はおかしかったからな」
「いや、あれは幻だろ?悪夢を見せる幻。だから、襲われたのは、自分で見ていた幻だ」
「じゃあ、なんで族長は、冥道みたいな場所に飛ばされたんだ?
冥道を開けられるのは凛だけだろ?俺達が知ってる中では」
「・・・・多分、あれは、冥道なんかじゃなかったんだ。
俺は、あの暗闇に放り込まれた後、冥界ではなく、見知らぬ原っぱにいた。
だからきっと、あの変な空間は、魔光霊命が作り出した空間だったんだろうな。
そしてそのまま、俺はどこか意味のわからない場所に吹っ飛ばされた」
「なるほどなぁ・・・・、ほうほう」
神羅は、俺が言う言葉に適当な相槌をいれると、大きく伸びをした。
「俺、長い話を聞くのは苦手なんだ。眠いから寝るぜ?」
「おいっ、それって、俺の話が面白くなかったとか言うのか!?
お前が話せっつったんだろ!!?」
「ああ、悪いな族長、俺も眠いんだ。もう寝るぜ」
そう言うと、神羅はその場で寝転がり、早々に眠ってしまった。
そんな様子に仕方なくため息をつくと、俺も再びその場に寝転がると目を瞑った。
「修羅さん、こんなところで本当に寝るつもりですか?草原のど真ん中ですよ?」
優羅に言われ、なんとか片目だけは開けるけれど、眠気に耐え切れず、直ぐに閉じた。
眠い。話している最中も、ただ只管眠かった。
自分で話しているのに、自分の声が子守唄・・・・
いや、何かの呪文のように聞こえて来て、
気を抜けば、直ぐにでも眠ってしまいそうだった。
「それなら、私も寝ることにしましょう。
修羅さんに比べれば大したこともありませんが、私も眠いので」
優羅は独り言のようにつぶやくと、その場に寝転がった。
話をしている間に夜になり、焚き火をしていたのだが、既に火は始末済みだ。
だから、寝てはいけないこともない。
俺は大きく息を吐くと、気を抜いた。
その途端、眠りの渦に引き込まれるようにして、深い眠りに落ちていった。