地獄監獄消滅
「さて、もういい加減着くよな?」
「・・・・」
「おい、大丈夫か?」
「・・・・」
「全く、これだから信用で・・・・」
「着きましたよ、ここです!」
「本当にそうなのか・・・・?」
俺がなぜいぶかしんでいるのか。それにはちゃんと訳がある。
あんなに大苦戦をしていた割に、着く時間が早かった。それに、誰もいない。
修羅らしき人物と思える人影がないからだ。
「ええ、そうですよ」
「修羅らしき人物はいないじゃないか」
俺がそう言った時、突然上から何者かが降って来て、
俺は驚いてとっさに飛び退いたが、フード付きの黒いマントを確認して俺は安心した。
ついに、修羅が出て来た。
修羅は立ち上がると、俺に近づいて来た。そして、手を差し出して来る為、握手をした。
「牢獄に閉じ込められている者。大切な物。全てを拾って来たか?」
「・・・・なんでそんなことを聞くんだ?」
「今からこの場所を完全に消し去る」
「なっ・・・・それじゃあ、残った奴らはどうなるんだ?」
「それは、消えるんじゃないか?俺が知った事じゃない」
「・・・・」
俺は、思わず押し黙ってしまった。
まさか、族長の口からそんな言葉を聞くことになるとは思っていなかった。
「・・・・お前、修羅って名前なんだろ?」
「ああ、それがどうした?」
「それ、本当の名前なのか?」
「本当の名前さ。嘘を言って何になる?」
「そう・・・・か。
俺が、『大切な物、閉じ込められた者を全て救出した。残ってるのは警備員だけだ』
と言ったら・・・・?」
「準備完了と見なして、この地獄監獄と言う場所を消し去る」
「俺達はどうするんだよ?この場から出ることは出来ないだろ?」
俺がそう言うと、修羅が首を振って言った。
「ここの脱出方法なんて簡単なものなんだ。ワープを使えばいい。
そうすれば、一瞬で外に出ることが可能だ。準備はいいか?」
「・・・・」
俺は、そこで黙り込んだ。
灸縁達と別れたせいで、あいつらが無事に外に出られたのか、
牢獄に閉じ込められている奴らは逃げられたのかと言うことがわからなくなった。
無線も使えず、あいつらと通信をする手段がなくなった。
・・・・待てよ。
「警備員はどうするんだ?」
「警備員の奴らのことなんざ知らん。お前だって大切な族長を苦しめられたはずだ。
だから、死んだって構いはしないだろう?」
俺は、無言で首を振った。
「おい、優羅、俺、ここに来る時に、修羅が族長に似てるって言ったよな?」
「・・・・ええ、そう言えば、そんなことを言っていたような気がします。
・・・・それが今、どうしたんですか?」
「・・・・違うんだよ」
俺は、何とか怒りを堪えながら、つぶやくように言った。
「は?」
「こいつは、族長とは全然違う!こんな奴が族長なはずがねぇ!
族長は、こんな意地汚ねぇ奴とは違う!!」
俺がそう怒鳴ると、修羅は今までポカンとして聞いていたが、
やがて、「クックックッ・・・・」と声を殺しながら笑い始めた。
「何が可笑しい!?」
「俺が意地汚いか・・・・。
まぁ、なんとでも言え。人に嫌われるのは慣れている。
別に、何を言われたって構わない。
ただ俺は、地獄監獄に恨みを持つ者同士、仲良くしようと言っているだけだ」
「・・・・復讐とか言うやつか?」
俺の問いに、修羅は少し考え込んだ後、微笑を浮かべて言った。
「それと似ても似つかないもの・・・・だが、総合的に言うと、そうなのだろうな」
「・・・・確かに、幸明のやり方は気に食わねぇ。
何の罪もない奴らを閉じ込めて、逆らっただけで罪を重くする。
・ ・・・それに仕えている警備員もどうかと思うぜ。
そのことに納得が言っていない奴でも、従っていれば同じ。
・ ・・・ただ、俺達と同じ生物だと言うことには変わりねぇだろ?
生きとし生けるもの。その全てが、お互いの死を攻め立ててはならない。
お互いを殺していいことなんかない。例え、国王でも神様でも、いけないんだ。
だからお前は、神達すらやってはいけないことを実行しようとしてるんだ」
俺の言葉を、修羅は馬鹿にしたような表情を浮かべて聞いていた。
「俺に説教か?お前、俺に説教出来るほどいい生き様をして来たのか?」
「いい生き様とか・・・・そんなので言葉を言う権利は決まるものか?
まぁ・・・・確かに、俺なんかがこんな言葉を言ったって、
単なる綺麗ごとにしか聞こえないかもしれないな。でも、これだけは言っとくぞ」
俺は、そこで一回言葉を切ると、大きく息を吐いた。そして、大きく息を吸う。
感情が溢れて、今にも爆発して変な言葉を言ってしまいそうで、
心を落ち着けるには、何度かの深呼吸が必要になったんだ。
「復讐の鬼にならないことだ。復讐の鬼となって果てるのは、悲しいものだからな」
「その言い方・・・・
まるで、自分が経験したとでも言いたげな表現だが・・・・?」
「それは、あんたに言う必要はない」
「そうか・・・・では、もう時間がない。地獄監獄を消滅させる」
突然そんなことを言われた為、当然面食らった。
「まっ・・・・」
「終わりだな」
そう言って修羅が笑った途端、俺の体は宙に浮いた気がして、
そのまま地獄監獄から消えた。