案内役って言ってもね・・・・
俺は、あれから優羅に引きずられて、
優羅いわく「隙間」と言う場所に連れて来られている。
優羅の言う隙間と言うのは部屋と通路の隙間だった。
だから、天井の隙間のようなものと思ってくれればいいだろう。
「狭いなぁ、ここ」
「確かに、俺も最初は狭いと思いましたが、慣れればそこまででもないですよ」
「っぽいな、慣れた感じで進んでるもんな」
俺は小声でボソボソ文句を言いながら、ゆっくりと前に進んで行く。
「とか、なんでこんな場所を通るんだよ?」
「ああ、あの通路、トラップなんです。警備員とかは、他の通路を通ってますよ。
あの通路を真剣に登っても、上に行くことは出来ないんです」
「と言うことは・・・・俺達、無駄な道を懸命に歩き続けていたと言うことか・・・・」
どうりでたどり着けないはずだ。いくら歩いても進まないものなのだから。
一時間近く歩いた俺は一体・・・・。
「大丈夫ですよ、そんなに気落ちしないで下さい。誰でも気づきませんよ」
「・・・・気落ちなんかしてねぇ!」
「それに、もう直ぐでつきますから」
「・・・・は??上にのぼってないだろ?真っ直ぐに歩いてるだけだろ?
そんなの嘘に決まってるぜ」
「言いましたよね?俺、嘘だけはつきませんから。もう直ぐですよ」
「お前、よくそんなことをニコニコ顔で言えるな?さっき、普通に嘘をついただろ?」
「ま、まぁ、それは置いておきましょう。
今度は嘘じゃないですよ、修羅さんにバラされたら大変ですからね」
そう言って俺の方を向いて微笑むが、俺は、その笑みを信じることはしなかった。
また嘘に決まってる。さっきだって普通に嘘を言っているんだ。
しかし、俺の予想は外れた。30歩ぐらい歩いた時、突然両端の壁が無くなった為、
俺は前に倒れ込みそうになったが、なんとか体制を立て直す。
「なんなんだ、ここ。やっと出られたぜ。
で、ここがてっぺんなのか?何もない場所だが・・・・?」
「・・・・あれ?ここに修羅様がいるはずなんですけどね・・・・
もしかして、間違ってしまった・・・・かな?」
「はぁ!?お前、方向感覚抜群じゃなかったか!!?」
「あっ、えっと・・・・その地図を貸して下さい」
そう言って、優羅は恥ずかしそうに手を差し出した為、
俺は仕方なく地図を渡してやると、現在地を教えてもらい、大きくうなずいていた。
「ああっ、そうか・・・・!」
「何がわかったんだ?」
「俺、一本道を間違えたようです。どうりでおかしいと思った。なるほど・・・・」
それから5分近く地図とにらめっこをして上へ行く方法を考えているようだったが、
俺は、それを手伝わず、ボーッと突っ立っていた。
こう言う性格の奴は、考えている途中で何かを話しかけると、
考えを中断してその答えを言う為、俺は何も話しかけない。それが一番いいのだ。
「では、出発しますか?」
「ああ、出発しようぜっ!」
やっと優羅が地図から顔を上げてそう言った為、俺は大きくうなずいた。
「今度は間違うことはないよな?」
「・・・・それは、愛嬌にお任せすると言うことは出来ませんかね?」
「そんなので許される訳ないけどなっ!」
そう笑顔で問うて来る為、俺も笑顔で言ってやった。
すると、笑みを消してため息をついた。
まぁ、仕方ないな、愛嬌なんかで流されるほど、世の中は甘くはない。
「でも・・・・怒らないで下さいよ」
「怒りゃしねぇよ。機嫌を損ねない限りな!」
「それ、物凄く個人的なものさしじゃないですか・・・・」
「まぁ・・・・それは、人間関係は難しいんだよって言うことだ。人生大変だからな」
「その様子だと、貴方、よっぽど大変な人生を送って来たんですね。同情します」
「・・・・お前、皮肉屋って言われないか?」
「いえいえ、そんなことを言われたことはありませんよ。
天使だとは言われたことありますけど」
俺は、そう言う優羅の頭を思い切りはたいてみたいと思った。
歳も年下のようだし、叩いてもいいかと思ったけれど、何とか理性を繋ぎとめる。
「そうか、そうか。そんなことはどうでもいいぜ。さっさと行こうぜ!」
「そうは言っても、貴方が問うて来たことなので・・・・」
「お前、皮肉屋って言われたことあるだろ?」
「それ二度目ですけど、俺、皮肉屋なんて言われたことはありませんよ」
「いや、それは絶対嘘だ。
お前が修羅の側近だからって言わないだけで、お前はかなりの皮肉屋だぞ。
自分でも気づいてるだろ?皮肉を言ってるって」
俺は、一応聞いてしまった。
ここまであからさまなのに、自分が皮肉屋だと自覚していないはずがない。
もし、自覚をしていなかったら、そいつはよっぽど馬鹿なのだろうか。
「えっ、俺・・・・皮肉屋だなんて一回も思ったことありませんけど・・・・。
俺、そこまで皮肉屋ですか?」
俺は、優羅から顔を背け、小声で文句を言った。
「こいつ・・・・本気で皮肉屋だって気づいてねぇ」
それだけ言うと、ため息をついて、優羅の背中を押すと、前に歩かせる。
「方向、こっちじゃないですけど・・・・」
「それを早く言えっての!」
俺は、そうツッコミを入れると、再び深いため息をついた。
「でも・・・・俺は貴方に背中を押されたから・・・・」
「俺のせいにすんなっての!とか、先進めねぇじゃねぇか!早く案内しろよ!」
「全く・・・・無粋な方ですね。
俺は元々、貴方が修羅様の元にたどり着くまでの道案内をするはずなのに・・・・
ここまで時間がかかるとは思ってなかったですよ。俺も」
「そんなの、お前のせいだろ!」
俺がツッコむと優羅は心外そうな顔をしたが、
大きくため息をついて俺から地図を奪うと、ブツブツ何かを言い始めた。
俺は、最初のイメージと随分違うものだと感じた。
最初は、ただニコニコ笑ってるだけの奴かと思っていたが、
こいつ・・・・只者じゃないほど馬鹿なんだ。
そう感じて、俺は大変な奴に絡まれたなと思って、深いため息をついた。