その心理は一体・・・?
「ぬぁっ、足がない!?」
「なっ、何がどうなってんだ?!」
「・・・・私のこと、覚えてないの?」
「そんなことある訳ないだろ?でも・・・・」
優河君はとても嬉しそうなのだけれど、その中にも戸惑いの色を含んでいる。
足を見ては、その女の人の顔を見ている。
「この森は、結構霊力が強いの。だから、霊とかが降り易くてね。
ここにあなたがいるから降りて来たの」
「そっ、そうなのか!」
僕はなぜか、優河君の反応にしっくり来なかった。
と言うのも、優河君の表情が引きつっているように感じる。
なんでそうなのかわからないけれど、笑顔を浮かべているものの、
その笑顔が自然なものとは思えないんだ。
「逢いたかったよ、優河!」
その女の人は優河君に飛びついていくけれど、霊体だから、
もちろん優河君が受け止められる訳もなく、スルッと通り抜けてしまった。
それを感じてか、優河君は蒼い顔をしてブルッと身震いをしていた。
やっぱりその反応を見て、僕は不思議な気持ちになる。
普通、好きな人が幽霊の姿になって現れても、ここまで怯えたりしないと思うんだ。
僕は、優河君には意地を張って言ったけど、
ほんとは、人を好きになると言うことはあったけど、
愛してるって言えるほどの人がいる訳でもない。
でも、なんとなくわかる。優河さんは、もうこの女の人を好きじゃないってこと。
「あらら・・・・そっか、私、死んじゃってるんだもんね。
でも、優河に会えて嬉しいよっ!」
「あっ、ああ・・・・。俺も嬉しいぞ」
「どうしたの?顔色が優れないけど・・・・」
「あっ、ああ、少し気分が悪くてな」
そう言う優河さんの表情は明らかに優れていなかった。
まるで、もう直ぐ消えてしまうような気がした。
そんな僕の不安は的中しないといいなって思う。とか、絶対にしないで欲しい。
でも、不安をかきたてられるほど、顔色が悪かった。
「本当に大丈夫?」
「あっ、ああ・・・・」
女の人が近付いた途端、優河さんは怯えた表情をして一歩下がった。
その光景を見て、女の人の表情が一気に変わった。
今までは満面の笑みを浮かべていたのだけれど、一瞬で無表情に変わって、
呆然とした目で優河君を見つめていた。
その表情がとても怖く思えて、僕は後ずさる。
睨みつけてる訳でもないのだけれど、何も表情を感じさせないその目は怖かった。
「なんで・・・・なんで、怯えた目で私を見るの?」
「違う、怯えてなんかない!・・・・ただ」
「ただ・・・・何?どうしたって言うの?」
「くっ・・・・」
優河君はその女の人から顔を背けると、僕の腕を摑んで森の出口へと走り出した。
「なっ、何!?どうなってるの?」
「今は何も言わせるな!俺は・・・・」
「えっ、なっ、何がなんだか・・・・」
僕は、訳がわからないまま優河さんに腕を引っ張られた。
「大分歩きましたね、もう少しで森の外に出られる頃だと思いますよ?」
「そうですか・・・・。これで、優河さんを救えるんでしょうか?」
「えっ、そう言われても・・・・」
「さぁ、見えて来たぞ。ここを出ればこの森から出られっ・・・・」
急に幸明が言葉を切った為、僕は不思議な気がしたけれど、
直ぐに、自分も言葉を切った理由がわかった。
外に出ようと一歩を踏み出した途端、僕は何かに顔面をぶつけ、星がちらついた。
それほど思い切り頭を打ったのだ。
しばらくの間フラフラしていたけれど、なんとか頭を振って意識を取り戻すと、
朱音さんに注意を促そうとした。
けれど、時既に遅しで、朱音さんも僕の隣で額を抑えてうずくまっていた。
「だっ、大丈夫ですか?」
「ええ・・・・。でも、結構痛くて・・・・」
「ですよね・・・・僕も、星がチラチラ飛びましたからね」
「それにしても・・・・これは一体なんなんだ?」
幸明は、僕らの話を無視しながらボソボソ言って、
透明のバリアのようなものを叩いている。
それは、バリアと言うよりもガラスのようなもので、とても固かった。
せめて、バリアのように柔らかくて、ボンッと跳ね返される程度ならいいのに・・・・。
僕はそんなことを思いながら、恨めしげにそのバリアのようなものを睨みつけていると、
矛盾している部分に気づいた。
・ ・・・どうして、このバリアのようなものがあるんだろうか?
入る時は、こんなものにぶつかることはなかったのに・・・・。
「なんでこんなものが突然出現したんでしょうか??」
「もしかしたら、この森は
『入ることを拒むことはないけれど、出て行こうとする者を拒む』
ように出来ているんじゃないか?」
「えっ、そんなこと・・・・なんでですか?」
「私に聞かれても困る」
「あっ!?」
僕らが言い合いをしていると、急に朱音さんが声を上げて立ち上がった為、
僕らは口論をやめ、即座に朱音さんの方を向く。
「どうかしたんですか?」
「優河さんが危ない・・・・」
「はい、それは知ってますけど・・・・」
「場所は・・・・ここ?そして、襲ってるのは・・・・誰?」
「何か見えたんですか!?」
「わからない・・・・なにが彼を襲ってるのかわからない・・・・
でも、なんだか、物凄く嫌な予感がします」
そう言った朱音さんの顔は、元々白かったのだけれど、
血の気が引いて、余計白くなってしまっていた。
これは、何か大変な事が起きてると僕は感じた。
「とりあえず、引き返してみましょうか?」
「はい・・・・怖いですけれど、優河さんを救いたいです」
僕は、状況がよく飲み込めてないけれど、朱音さんの後を追って森の奥へと走り出した。