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想造世界  作者: 玲音
第四章 種族争い
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逃走劇の始まりは・・・・。

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」


俺達は無言でその光景を眺めていた。


目の前の現実があまりにも残酷なもので、誰も何も言えなかった。

いや、口を開くことも出来なかったのかもしれない。


一番最初に我に帰ったのは琉貴で、恐る恐る骸骨に近付いて、触った。


「これ、本物なんじゃないか?」


「・・・・それを言うな。言われなくても、希望なんか持っちゃいない。

その髪の色は族長のだ。間違うはずがない」


「しかし、どうして髪だけが残ったんだ?」

「・・・・俺が知る訳ないだろ?」

「・・・・」


「元気を出せとは言わない。だが、そんな顔をするな。

族長殿の為にも、我々はここを無事に出よう」


「・・・・」


俺は、無言で髪を取ると、紐で縛ってから部屋から出た。


「何をするつもりだ?髪などを持ち帰って?」


「何もしない。ただ、せめて、髪だけは持って帰ろうと思ってな。

そうすれば、みんなも納得するだろうから」


「・・・・骨はいいのか?」


「重くなるだけだ。

それに、骨なんかで本人とわかることはない。だったら、髪の方がいい」


「それじゃあ、俺達はここから出るのか?

もう、お前の族長はいない訳だし、ここにいる意味もないだろ?」


「・・・・いや、まだしばらくここに残るぞ」


俺の発言に、琉貴と灸縁が大きく息を吐いたのがわかった。

きっと、ため息なのかもしれないが、俺にはよくわからない。


「なぜ、こんな危ないところに残るんだ?」

「・・・・言わなくてもわかってんだろ?なら、言わせんなよ」


「わからない。・・・・そうだとしても、お前の口から聞いてみたい。

それが本当の意思なのであれば、躊躇わずに言えるはずだからな。

お前は、ここに閉じ込められた奴を救う為に、危険なこの場所に残るのか?」


「・・・・確かに、ここは危険だよな。

今までは族長を助けると言う目的があったから、ここまで来れた。

だが今は、漠然とした目的しかないから、これからの難を乗り越えられるかわからない。

ただ、やれるだけやってみたいと思う。もう、あんな思いをする人は見たくない」


「・・・・そうか。なら、俺も協力しよう。お前もそうだよな?」


今までずっと黙っていた灸縁に琉貴が話を振る。


「私はついて行くぞ。助けてもらったのだからな」

「・・・・それだけか?」


琉貴にそう言われ、灸縁は目を逸らす。どうやら、軽度の照れ屋のようだ。


「・・・・まぁ、惚れた部分もあるな」


そう言われ、今まで緊張していた空気が一瞬にして緩み、

「・・・・それだけか?」と聞き返した琉貴も目を丸くした。


「いや、俺は、そんなことをカミングアウトしろとは言ってないぞ・・・・・

いや、しかし、まさかな・・・・」


そう言って、琉貴は俺と灸縁の顔を見比べてから、顔を背けて、クスクス笑い出した。


「おっ、おい!なぜ笑うのだ!それに、何を勘違いしている!

私は、生き方に惚れたのだ!決して勘違いするな!」


そう必死に灸縁が抗議をするが、琉貴は相変わらず笑ったままだ。


「とか、なんにも勘違いしてないぜ」

「!?」


琉貴の言葉に灸縁は目を見開き、よろよろと壁に寄りかかった。

自分でその言葉を言ったらお仕舞いだろうと思う。

それに余計おかしくなって、琉貴が笑い始める。


しかし、そんな穏やかな時間はいつまでも続かなかった。


「誰か来るぞ!」


俺の一言で緩んだ空気が一転し、再び緊迫した空気が流れる

俺達は音を立てないように影に隠れた。


「どうしたんだ?」

「誰かが来たんだ。これが敵だったら、俺達は終わりだな」

「とは、どう言うことなんだ?」


「ここを閉められたら、俺達は出られない。

ここは、外側からじゃないと鍵を閉めることも開けることも出来ないんだ」


「・・・・マジかよ。どうするんだよ?」

「せっかくやる気出したところだったのによ。全く・・・・」


そんなことをブツブツ言いながら隠れていると入り口に影が差して、

誰かが立っているのがわかった。


俺達は息を殺して縮こまったが、部屋はかなり狭い為、直ぐに見つかった。


「お前達、そこで何をしている!」

「・・・・」

「クソッ」

「これで、逃走劇も終わりか」


警備員が笛を吹いた途端、どこから湧いて出たのか、無数の警備員が群がって来て、

俺達の腕を摑むと部屋の外に連れ出す。


その祭、壁に寄りかかるようにあった族長の骨がバラバラになって、

俺の心もその骨と同じようにバラバラに引き裂かれるようだった。


ただただ、自分の無力さを呪いたい。

族長をあんな姿にしてしまったのも、全て俺のせいなのだ。


そう思うとやりきれない気持ちになって、今まで素直に連れて行かれていたのだが、

全力で抵抗をし始めた。


「こらっ!抵抗したって、どうせどこにも逃げられないんだ!なぜ抵抗を始める!」

「うるせぇ、離せ!俺は、こんなところで無様に捕まってる暇はねぇんだ。離せ!」

「抵抗をすればするほど刑は重くなるんだぞ!」

「そんなの関係ねぇ、ここでくたばれねぇ!」


俺が抵抗をしているのを見てからか、琉貴と灸縁の方も騒がしくなる。


当然、警備員の奴らは必死に押さえつけようとするが、俺はそれを振り払うと、

灸縁達の方に歩いて行く。


「コラー!」

「『コラコラ』うるせぇぞ!」

「うるさいだと!」


「ああ、うるせぇよ!」

「うるさいとはなんだ!刑を重くするぞ!」


「ったく、『うるさい』って言っただけで刑を重くするなんて、ほんとに馬鹿だよな。

信じられねぇよ」


「何!?」


ついに怒った警備員が襲い掛かって来るが、俺はそれを屈んで避けると、

傾れのように倒れている警備員を横目に見ながら、琉貴と灸縁を助け出し、

警備員とは反対側に走り出す。


「中々やるんだな」

「これで中々やるって言ったら、俺達の世界じゃ生きていけないぜ」


「ふんっ、我々は、元々神の世界の住人だからな。魔界に住むつもりはないさ」

「そんなガキの言い訳みたいなこと言ってんじゃねぇよ!」

「そうだな。ところで、脱出したはいいが、どこで奴らを撒く?」


「とりあえず、この地下から脱出しよう。まずはそれが先決だ」

「ああ、了解!」


俺達は互いに顔を見合わせると、大きくうなずいた。


いつの間にか、こいつらを信用している自分がいた。

今まで人をあまり信じなかった自分が人を信じれるようになったのは、

多分、あの人のおかげかもしれない。


それがわかると、改めて、あの人を失った悲しみで心が埋まることとなった。


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