思い出の為に
「さて、優河さん、朱音ちゃんはいなくなったから、瘴気を出すのをやめようね!」
【私をバカにしているのか?】
「とか、優河さん、殺されちゃうんだよ!
朱音ちゃんの能力は未来が見えるんだけど、その未来で優河さんは殺されちゃうって!」
【ふんっ、どうせもうじき死ぬ。それなら、この森から出ることはしない】
「なっ、なんで?何か思い出か何かがあるの?」
【お前に言う必要はない】
「・・・・ほぅほぅ、そう言うことですか・・・・。よしっ、推理完了!」
僕は、笑みを浮かべながら優河さんを見る。
【何がわかったと言うのだ・・・・?】
「もしかしてさ、この森に何か思い出があるんだね。
そして、その思い出が忘れられなくて、死ぬ場所はここと決めた」
【・・・・】
「もしかして・・・・恋人かな?しかも、朱音ちゃんそっくりの女性だったり・・・・」
【・・・・】
「僕の推理をざっと説明すると、ここで彼女は死んじゃったんだね。
それからずっと彼女のことが忘れられなくて、優河さんはこの森に住み続けていた。
そんな時、彼女にそっくりな朱音さんが追われている姿を見かけて、
優河さんは、自分の身を削ってでも朱音さんを守りたいと思って、
自分の身を削って瘴気を出し続けて来た・・・・」
【・・・・なぜ、そこまでわかったのだ?】
「だって、大体の目測でわかるよね、
冷たい人が優しくするってことは、何か理由があるはずだからね」
【あまり説明になっていないような気がするが・・・】
「とにかく、そんな面倒なことは言わないの!と言うことで、出ましょう!この森からね!」
【そこまでわかっているのに、なぜこの森から出そうとするのだ?】
「だって、死なれちゃったら困るからね。それが嫌なら、せめて元の姿に戻ろうよ~!」
最初は渋って中々元の姿に戻ろうとしなかったけれど、
僕の長い説得の末に、優河さんは神の姿に戻った。
「これで満足か?」
「うんうん、案外ちっさいんだね」
僕が笑顔でそう言うと、優河さんは摑みかかろうとしたけれど、それをスルリと避ける。
「それに、僕と同年代っぽいね!」
「黙れ!これでも17だ!」
「あれれ?僕より年上なのに、僕より小さいかも・・・・」
「そんなことはない。お前なんかと違って、俺はそんなにちっさくない!」
「しかも、性格変わってる~♪」
僕がケラケラ笑っていると、優河君(同年代だからね、君って言う方がいいもん)
は怒り出して攻撃を加えてくるけど、それをスルスルとかわしながら、
徐々に森の外へと誘導して行く。
そう言えば、最初は紫色をしていた森だけど、優河君が元の姿に戻ったおかげか、
綺麗な緑色に戻っている。それにもう、苦しくもない。
「さて、ここまで来たらもういいだろ?俺はここで死ぬって決めたんだ。
彼女の死んだこの地で死ぬことが、俺の唯一の願いなんだ」
「だから、瘴気を出すようなまねもしてたんだね?
守る方法としてバリアがあるのに、なぜ瘴気を出してたのかと思ってたんだけど、
少しでも早く彼女の元に行きたいから、自らの体を蝕む行動を起こした。
でもね、そんなことしても、彼女は喜ばないと思うよ?」
「なぜ、お前にそれがわかるんだ?」
「いやいや、それが常識よ?普通、喜ばないもん!」
「そんなことはない。俺達は、どちらか一人が死んだら直ぐに後を追うと約束したんだ。
それなのに、俺は彼女にそっくりのあの女を見て、死にたくないと思った。
あの女を守ってくれる誰かが見つかるまで、自分が守らなくちゃいけないと思ったんだ」
「別に、それでもいいんじゃないの?とか、むしろそう思わない方がおかしいと思うよ。
生物って言うのはね、生きたいと思うのが自然の摂理だしね。
逆に死にたいと思うのは・・・・ねえ?」
僕の言葉に優河君はため息をついた。
「それは違う。俺達は、死んでからもお互いを愛し合おうと誓った。
だから、あの女の為に生きるなんて、許されないことだ。
彼女との約束を破ることになる・・・・!」
「・・・・うーん、一度死んじゃった人を愛し続けるって難しいことだと思うよ?
とか、いつまでも死んだ人を愛すのは、残された人が苦しいと思う。
優河君の彼女さんも、自分の愛しい人が苦しむのは見たくないと思うよ?」
「いや、そんなことは苦悩にすらならない。
お前はおこちゃまだから、愛と言うのを知らないだけだ」
明らかに馬鹿にしたような態度でため息をつかれた為、僕はムカッとして言い返す。
「そんなことないもん!僕だって、人を好きになったことあるもん!」
「そうなのか?お前みたいな幼稚な奴がか?」
「ばっ、馬鹿にするな!僕だってね、恋ぐらいするもん!
それにね、馬鹿にしないでよ!」
「それは悪かったな。お前みたいなガキが恋をするとは思えなくてな」
そう言って声を殺して笑う優河君のことが心底嫌いになった僕は、
優河君のことを思い切り睨みつけてやった。
だけど、朱音ちゃんを守った人だし、朱音ちゃんと約束したからね、助けるって。
だから、何とか怒りを抑える。
「全くさ、とんだカップルだね。とかさ、僕が呼ぼうか?その子」
「・・・・はぁ?お前は何言ってんだよ?彼女は死んだんだぞ?
それをどうやって呼ぶのか・・・・」
僕は、冥界から彼女さんを連れて来ようと大きく息を吸ったけれど、
動作の途中でを止められた。
「それには及ばないわ」
急にそう声をかけられて、思わずビクッとしたけれど、
直ぐに振り返って、思わず二、三歩退いた。
だって、あしが・・・・足がないんだもん!