現実世界への第一歩
「実はね、私、神と妖怪の子供なんだよね・・・・」
僕は、その言葉を聞いて黙り込んでしまった。
それって・・・・なんか、いけないような雰囲気がするぞ。まずい雰囲気だぞ、これ。
「そっ、それって、はっ、ハーフ?」
「・・・・?」
僕の言葉に、ハーフの意味を知らない朱音ちゃんは首を傾げたけれど、
僕がハーフの説明をすると、「そんなもんかな?」と言って、少し寂しそうに笑った。
「妖怪とは、神にとっては単なる娯楽の為に生きている存在。
それなのに、私のお父さんは、妖怪の女性に一目ぼれをしてしまった。
お母さんもそうみたいでね。
でも、神と妖怪の恋愛なんて許されるはずもなく、二人はこっそりと会っていた。
しかし、それもバレて、私のお父さんは地獄監獄の奥底に閉じ込められて、
お母さんは殺されてしまった」
「えっ、ちょっと待って、じゃあ、朱音ちゃんはどうしているの?」
「ああっ、そこの説明省いちゃった!」
僕が聞くと、朱音ちゃんはクスクスと笑い出しだ。
こんなに明るい子が、まさか、神と妖怪のハーフの子だとはとても思えない。
でも、やっぱり雰囲気が不思議な感じがするから、
言っていることは嘘じゃないってわかった。
「私のお母さんは、自分の命がもう長くないとわかってたから、
私の命を、現在妊娠している女性の赤ちゃんに宿らせたんだよね。
そして、私は生まれた」
「ほぇ~~~!そんなこと出来るんだ!」
僕は、自分も同じ妖怪なのだけれど、そんなことが出来ると知って、物凄く驚いた。
なんと言うミラクルだと思ったんだ。
「だけど、その夫婦は妖怪の夫婦だから、妖怪の子供しか生まれないはずなのに、
妖怪よりも運動神経が悪かったり異常に頭がいい私が生まれた。
だから、二人は私のことを疑った。そして、調べることにした。
すると、そこで私のお母さんの情報が入って、
その夫婦は、私が自分達の子供じゃないと確信して、牢屋に連れて行こうとしたんだ」
「えぇっ、酷い・・・・。
でもさ、お母さんお父さんは死んじゃったのに、どうして知ってるの?」
「お母さんの記憶をそのまま受け継いだからね。
でも、必要以上のことはわからなくて、お母さんお父さんの顔はわからないの。
ただ、私が生まれる過程だけしかわからなくてね」
「そっか・・・・それで?」
「そして、私は魔界から逃げ出し、神域へと逃げたの。
でも、神域でも私の存在を認められることはなく、
神達の間では、私は汚らわしい者として、早く抹殺したい対象だった。
神域を司る神にバレたらとんでもないことになる。
だから、指名手配状態になって、私はどこにも逃げ場がなくなった。
お腹も空くし喉も渇くしで、
死にそうになってたところを助けてもらったんだよね、優河さんに」
「ほうほう、で、その人って誰?」
「今は樹になって、瘴気を出してるんだ。
私をかくまう為に、いつも死にそうになりながら、
人を森に寄せ付けないように、瘴気を出してるんだよね」
その言葉を聞いて、僕は大きくうなずいた。
じゃあ、あの樹は、この子を守る為に瘴気を・・・・。
「瘴気を出すと言うのは、体に負担がかかる上に、自分もその瘴気を吸ってしまって、
どんどん体が弱って来てるんです。
そんなことを、かれこれ50年も続けてるんです・・・・」
「50年!?」
僕は、あまりにも長い月日に体がのけぞった。
まさか、50年もの間、自分の身を犠牲にこの子を守っていたのかと思うと、
尊敬に値する人だなって思って、大きく息を吐いた。
「はい。でも、もうやめてもらいたいんです。
このままじゃ、優河さんが殺されかねない・・・・。だったら私が死んでもいいです。
凛ちゃんも、私と話してたら、勘違いされて殺されちゃうよ?」
「ああっ、大丈夫大丈夫。僕は強いよ?
それに、僕は君を見捨てない。だから、行こうか!魔界へ」
「えっ、あっ・・・・へ?」
「僕らの住む世界・・・・魔界はね、そんな小さなことは気にしない。
それにもし、文句を言う奴がいたら・・・・ね?」
僕がそう言った後、朱音ちゃんの体が震えた気がして、
僕は、慌てて「ね?」って笑顔を向けた。
「でも・・・・」
「気にしないで♪僕は、君の味方だよ。見捨てたりなんかしない。
だからさ、一緒に優河さんを止めよう?
自分の発した瘴気と言えど、自分の身を侵すことは事実なんだからさ。
命の恩人を、このまま殺す訳には行かないよね?」
僕がそう言って微笑みかけると、その子も微笑んだけれど、
直ぐにハッとした表情になって、今度はとても不安そうな顔をして僕の方を見た。
「どうしよう・・・・優河さんが、殺されちゃう・・・・」
「へっ?いっ、一体どうしたの?」
「私ね、時々未来が見える時があるの。
それは、神としての能力の一つだと思うんだけど、
それで、今見えた未来は、優河さんが・・・・」
「うわぁっ、そりゃ大変!急いで外に出ないと!いこ?」
「えっ、どこへ?」
「外の世界だよ!幻の世界じゃなく、本物の現実世界へ!」
「えっ、でも私、怖い・・・・」
「大丈夫!こっちには、神域の神様・・・・
いや、宇宙の神様がついてるから、大丈夫だよ!」
「えっ・・・・?」
そこまで言っても戸惑っている朱音ちゃんの手を取ると、
僕は、幻の世界から脱出する為に走り出した。