瘴気の奥は・・・・
「さて、どうしようかね」
僕は、瘴気の中でため息をついた。
入ったはいいけど、何をすればいいのか・・・・。
そんなことを思いながら歩いていた時、
不意に、地の底から響いて来るような声が聞こえて来た。
【ここになんの用だ?】
「おっ、ボスの方ですかね?なら、言わせてもらいましょー!
この瘴気をなんとかして下さいっ!以上です!」
【それは出来ん】
僕の申し出は考えもなく却下されてしまった為、僕は大きくうなだれた。
だってそうじゃん!
少しくらい考えてくれたっていいのにさ、
考えもしないで否定されたら、僕も嫌な気分になっちゃうよ。
「なんでですか?」
【それを、今ここに来たばかりの奴に言う義務はない】
「まぁ、そりゃごもっともと言いたいところだけど、ダメ!
言ってくれなきゃ、ここで暴れちゃうもん!」
【そんなことをしても追い出すだけだ。
ここは、私の体の中と言っていい。いつでも追い出すことは可能だぞ】
「・・・・と言うことは、あなたは、あの大きな木ですか?」
【まぁ、それぐらいなら教えてやってもいいだろう。
そうだな、私は、この森一番の巨木だ。霊樹と呼ばれている】
名前まで教えてくれとは言わなかったけど、教えてくれたので、何も言わなかった。
「・・・・チェッ、全くさ、イジワルだね!
もういいよっ!僕、出て行っちゃうもん!」
薄暗かった木の中から出る為に、明かりのある方へ歩いて行った途端、
今まで余裕に聞こえていた霊樹の声が、突然切羽詰ったものに変わった。
【その先に行くな!】
「えっ・・・・?」
僕は、既に光りの中に足を踏み込んだ後で、
そのまま、どこか違う場所に飛ばされてしまったようだ。
「おっ・・・・おろ?」
僕は、慌てて辺りを見渡すけれど、さっきの瘴気のような雰囲気はなく、
むしろ、物凄く澄んだ空気の綺麗な森の中に立っていた。
今までいた怪しい雰囲気じゃなくて、汚れ一つない綺麗な森だ。
二回綺麗と言ったことは気にしないでよ。
だって感動して、思わず二回言っちゃったんだ!
水が流れる音、青い空、澄んだ空気。そして、目の前には風車小屋があった。
まるで、映画の中のワンシーンのような気がした。
とりあえず、その風車小屋が気になったから、そこに入ってみた。
その風車小屋は安易な造りで、強く蹴ったら壊れちゃいそうだった。
木造だから脆く見えるのかもね。
とりあえずドアノブを回してみると、鍵もかかっていないようですんなり開いた為、
そのまま風車小屋に入った。その途端、鋭い声がした。
「誰!?」
僕は、とっさに体が反応して、両手を上に上げると引きつった笑みを浮かべた。
刃物か何かを突きつけられた訳ではないのだけれど、
その声だけで危険を感じて、体が動いた。
「あっ、えっと・・・・失礼しました!」
僕は、なんとかそれだけ言うと、お辞儀をしてその場を去ろうとするけれど、
呼び止められた。
「あなた・・・・悪い人じゃなさそうね」
そう言って、その声の主が姿を現した。
歳は、僕と同じくらいで、身長は僕とそんなに変わらない。
紅くて長い髪に、透き通るような白い肌で、
これまた、アニメの登場人物のようなイメージがあった。
「ええ、まぁ・・・・珍しいですね、紅い髪って・・・・。
今まで神の世界にいたけど、見てないよ?」
僕がそう言うと、その子は僕のことをじっと見た後視線を逸らし、
部屋の隅にあるベットに座った。
僕はどうしていいかわからず、そのまま動かないでいると、
手招きをされてベットに座れと促された為、
ゆっくりと扉を閉めると、出来るだけ足音を立てないように歩いた。
「どうしてそんな変な歩き方をしてるの?」
「えっ、だってこの家、ちょっと力入れただけでも壊れちゃいそうで・・・・」
僕が苦笑いでそう言うと、その子はクスクス笑い出した。
それを見て、何かおかしいことを言ったかと思うけれど、
思い当たる節がみつからない。
「まぁいいわ。とりあえず座って」
ポンポンとベットを叩かれた為、僕は、ベットに座った。
最初は、なんでこの子がベットに座ったかわからなかったけど、
部屋の中を見渡して、椅子がないことがわかって納得した。
「あなたの名前は?」
「僕は、凛だよ」
「あなた、不思議な子ね、女の子なのに僕って言うなんて・・・・」
そう言って、その子は再びクスクス笑った為、僕も、同じように笑うしかなかった。
やっぱり、男って見られないんだなって思うと悲しくなって、ため息をついてしまう。
でもまぁ、こんな体型に声だし、当たり前かな?って思った。
それに、半ば諦めてる面もあるから、いいかなって。
「いやね、僕って言うのが癖づいてるんだよね。
気にしないで!ところで、君の名前は?」
「私は、朱音って言うの」
「そっか、いい名前だね。それに、髪の色も綺麗だね、珍しいと思うけど・・・・」
「・・・・私ね、神様じゃないんだ」
「えっ、そうなの?じゃあ、何?」
「・・・・それは」
僕が聞いた途端、朱音ちゃんは黙り込んでしまった。
深刻なことなのか、話し出そうとしない。
「僕ね、今は普通の格好をしてるんだけどね、実は、妖怪だったのです!」
「えっ!?」
僕のカミングアウトに、朱音ちゃんは驚いた。
そして、なぜか、ホッとしたような顔をした。
もしかして、朱音ちゃんも妖怪だったり・・・・?
「実はね、私、神と妖怪の子供なんだよね・・・・」