変態教師
「なんで懸賞金のことを知っても、俺を襲わないんだ?」
「それは、そんなつもりはないから。ただそれだけのこと。最初は、やっぱり、懸賞金目当てに観察してたんだけど、何だか惹かれちゃったみたいで」
「惹かれたなんて気持ち悪い言い方するのはやめろ!俺が引くぞ」
「じゃあ、好きって言えばいいの?」
「それはもっとおかしい!」
恥ずかしい気持ちが一気にこみ上げて来る。今までそんなことを誰からも言われたことがないから・・・・。
「ああ、亜修羅。今、なにか変なこと考えたでしょ?顔が真っ赤だよ、いやらしいなぁ」
「ふざけるな!お前が変なことを言ったからだろう」
「変なことって・・・・。友達のこと好き?とか、嫌い?とかって表現あるじゃん」
「だからってな、そんなこと言われたこともない奴に・・・・」
「ええぇ!!?ないの?言われたことないの?可哀想に・・・・」
凛の哀れみと半ばバカにしたような顔に、さっきまでの恥ずかしさは消え、逆に怒りが湧いて出た。
「うるさい、お前みたいな奴にわかるか!両親もいて幸せな奴にはな!」
「ああ、そうだ。その話、全くの嘘」
「う・・・・嘘?」
「うん、家を全焼しちゃったのは本当だけど、仮の両親だっていないし、本当の両親も行方不明なんだよ」
「そうなのか」
「怒った?」
「いや、損した」
「?」
俺の言葉の意味がわからない凛は、はてなマークを顔中に浮かべたけど、俺は答えを言わずにいた。言ったら、どうせまたからかわれるに決まっている。
学校では、相変わらず変人扱いを受けてはいるが、毎回屋上に退散するので、あまり気にならなくなった。
本当は、俺が逃げる必要なんてない。ただ、懸賞金がかけられている身ともなると、周りの生徒と親しくしてはならない。関係ないのに狙われたら、助ける俺が大変だ。
しかし、どうしてもついて来る奴がいる。
「何でいつもここにいるんだ。俺に学校に来るなって言いたいのか?」
「違うよ、私のことは気にしないで」
そう。屋上に避難すると、毎回女がいる。屋上にいる時は静かなのだが、後ろからずっと見て来るから、眠るどころではない。最近は大分睡眠が取れるようになったものの、前だったら、俺は怒っただろう。
「気にするなって、気にするだろう普通。そんなにジッと見られたら」
「ごっ、ごめん」
俺は、しょうがなしに場所を移動した。ここは、日当たりも悪いし風通しも悪い。だから、あまり好きではない。
そう思いながらも眠ってしまった。自分でも無神経だと思うが・・・・。
眠っている間を襲われることはなかったのが、不幸中の幸いだった。
少しボーッとする頭を振りながら影から出て来ると、凄く多い妖怪が屋上を埋め尽くしていた。
「いたぞ、一気にやっちまえ~~!!」
「ったく、外道は外道なりの考えがあるようだが。そんなの俺に通用すると思ってるのか?」
変化をを解き、妖狐の姿に戻る。それから、チャイムがなりそうなので一気に型をつけることにした。
「烈火郷満層!」
妖怪達の足元から、烈火の如く、マグマが吹き上げられた。それは、妖怪たちの真上から降って来て、赤いドームのようだ。
そして、一匹残らず倒した後、何事も無かったかの用に教室に戻った。
しかし、授業はとっくに始まっていて、教師にいびられた。最悪なことに、数学の教師だ。
「伊織、なぜ遅れた。理由を言え!」
「寝過ごしました」
「何?寝過ごしただと?わしの授業の時ばかり遅れて!」
「いえ、そんなことはありません」
「なら、どう言うことだ?」
「他の授業でも遅れます」
「ふん。不良生徒が」
こいつは、教師のくせに変態だ。男には厳しいくせに、女には砂糖のように甘い。なぜ、こんな奴が教師をやっていられるのか俺も不思議だが、みんなもきっとそう思ってるだろう。
「先生、もう許してあげて下さい。伊織君は、あんまり寝る時間がないんです」
「・・・・うむ、仕方ない許してやる。でも、今度は遅れてこないように!」
教師は難しい顔をしているが、明らかに気に入りの女に止められたから、即、俺を咎めるのをやめたのだろう。そして、そのお気に入りの女とは・・・・。
「浅積先生、伊織君には特に厳しいからね。大丈夫だった?」
「ああ」
隣の席の女。うるさく話しかけて来てうざいと思ってる奴だった。きっと、この女が俺のことを好きだと感づいているから、男の中でも特に俺に厳しいのだろう。いい迷惑だ。
「何で伊織君にはあんなに厳しいんだろうね?」
「知るか」
こいつは、本当に鈍感だ。他の女は、浅積の変態のような動きに気づいていて、みんな、目を合わせないようにしているが、こいつはそんなことにも気がつかず、普通に接している。恐ろしいほど鈍感な奴だ。
「逆に、私には優しいし」
「・・・・」
「ねぇ、どうしてかな?」
女がそう聞いた時、浅積の頭に角のようなものが一瞬見えた。とっさに立ち上がってしまって、浅積ににらまれる。
「何か?」
「いえ・・・・」
確かに見えた。鬼のような角が。これは、少し見張る必要があるな。そう直感した。
見張らないといけないなと確信した時からずっと張っているだが、奴は本当に変態だ。それを見ているこっちまで嫌気が差して来る。
前を歩く女のスカートをめくろうとしたり、前から来る女の胸を見てニヤニヤ笑っているし。仕舞いには、わざとぶつかってみたりと言うことを毎回している。
ああ、こいつが妖怪だったら即刻殺してやりたい。そう思いながら変態行為をジッと見ていた。
そんなげっそりしそうな光景を見続け、やっと放課後になった。今のところ、変態行為は行っているが、妖怪関係の怪しいことはしていない。
そろそろ帰ろうかと思った時、声が聞こえた。声の主は、奴の気に入りの女と、奴だ。気に入りの女とは、言わずと知れている、うざい女のことだ。
俺は、かなり遠くから見張っていた。視力だけは、妖狐の姿の時とかわらないからだ。しかし、耳はそこまでよくないために会話が聞こえない。しかし、女が嫌がっているのがわかった。
その時、俺の中で何かが切れた音がした。もう、これ以上あいつの変態行為を見ていられない。
俺は、躊躇いも無く妖狐の姿に戻ると、浅積の頭を思い切り殴った。本当は、奴をバラバラに引き裂いてやりたいぐらいだ。しかし、俺はそこまで理性を失っていた訳ではないので、何とか殴るだけですんだ。
しかし、妖怪の思い切りを頭で受けた人間は即死だろう。それでも起き上がったら妖怪・・・・。
そいつは、見事起き上がった。よし、妖怪なら手加減なしで大丈夫だな。
「邪魔をするな!なぜ邪魔をする。わしのこの悲しい気持ちがわからんくせに!!」
「外道の気持ちなんぞ、俺にはわかるか!特に、変態の気持ちなんざ更々わからない。何で、お前の遊び道具としてこいつを使った?」
完全に鬼の姿と化した浅積に向かって言う。それから、チラと女の方を見やった。しかし、それがまずかった。
「その子が一番の好みなんだ。お前もそうだろう、亜修羅」
見てはいけないものを見て、慌てて前を向く。くそっ、こいつの意図が読めない。なぜ襲おうとしない。そう言う奴が一番面倒なんだ。
「俺は違う。それより、あいつの服を返せ!」
「いやじゃ、せめてこれだけでも持って帰る」
ああ、本当にこいつを殺してやりたい。そんな衝動を必死に堪える。こいつは、何がしたいんだ?俺の動揺ぶりを見て楽しんでるのか?
「返せ、今なら瀕死状態で生かしておいてやる」
「ダメだ。本当は、この下のやつがよかったけどお前に邪魔されたからな。しょうがなしにこれで我慢しようって言うんだ」
そいつは、女の着ていたブラウスを大事そうに抱えている。・・・・吐き気がする。なぜ、こんな奴に付き合ってなくちゃならないのか。さっさと殺ってしまいたい。
まだ幸いなのは、女が気絶していることだ。出なかったらこいつは・・・・どうなっていただろうか?
「しょうがない。じゃあ、お前を大事な服ごと煉獄の炎で燃やしつくしてやる!烈火郷満層!!」
「あじゃーーーーー!!!」
そいつは、俺を迷わせた割には弱かった。簡単にやられた。しかし、問題が残った。女のブラウスまで勢いで燃やしてしまった。
その時、ある考えが浮かんだ。それは、俺のを貸すこと。俺はと言うと、その間はずっと妖狐の姿でいれば問題はない。
服の問題は片付いたが、今度は俺がまた変な目で見られることになる。もう、それはいいか。すでにクラスメートから変な目で見られてるもんな。
学校に置いて行くのもなんだから、家に運ぼうとした時、まずいことに女が意識を取り戻した。なぜ、こんな最悪なタイミングに・・・・。
「あっ、ありがとう」
「?」
何て言われるかと思ったが、全く予想していなかった言葉に驚きを隠せなかった。こいつ、狂ってるのか?
「だって、助けてくれた上に服まで貸してくれたでしょ?」
ああ、やっぱり、妖狐の姿になっても服さえあればバレるか。まぁ、上着なら二枚あるからな、そのまま家に帰っても、もう一枚あったから大丈夫だ。
「ちゃんと着ないと風邪ひくぞ」
女は、そう言われてやっと自分の惨状がわかったようで、小さく悲鳴を上げてからボタンを閉めた。
「・・・・あの、伊織君?」
「そんな奴は知らん」
「でも、生徒手帳・・・・」
ダメだ、嘘を突き通せない。生徒手帳を見られるとは思ってもみなかった。
「ああ、そうだ」
「まさか、本当だったんだね。伊織君って、妖狐って言う種類なんだね。本名は亜修羅って方なんでしょ?」
「まあな」
「かなりびっくり・・・・」
「俺はもう行くから」
「でも、これは?」
「もう一つあるから安心しろ」
「本当にびっくりだよ・・・・」
俺はその声と同時にその場を離れたが、最後の言葉を聞き取ることが出来た。
それは・・・・。