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想造世界  作者: 玲音
第一章 人間界へ
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初めての仲間

「凛、お前はあの話を聞いて、俺を捕まえようとしないのか?」


森から帰る途中、ずっと聞いてみたかったことを、今、聞いた。


ここで何と答えられても仕方ない。まだ出会ってから浅い日付しか経っていないし、魔界に住むものなら、楽して金をもうけたいと思う奴がほとんどだと思っているからだ。


「あのさ、バカじゃないの?僕が亜修羅を捕まえようとしてたら、懸賞金のことを知った時点で捕まえて、警察に連れて行く。そのつもりがないから、さっきだって守ってあげたんでしょ?」


凛の言い方にかなり苛立ちを感じたが、あまり怒る気になれなかった。まだ、欲深い妖怪の中でこんな奴がいてよかったと思うしかなかった。


正直に言うと、犬神に姿を変えた凛には、俺も敵うどうかわからない。いつもヘラヘラしてるが、犬神になると、途端に性格がコロッと変わってしまう。変な奴だが、心強いと思うこともある。


「お前、そろそろ人間の姿に戻れよ。もうすぐ森から出るぞ」

「わかってる」


犬神の姿になると、凛は少し突っ張りになるようだ。しかも、俺と同じタイプだから余計に真似されているみたいでムカつくが・・・・。


人間の姿に変わった途端、犬神の時の威厳と言うかなんと言うか、そんなものが一気に消えうせてしまった。それは、凛が自らでやっているのか。それとも、ただ性格が豹変しただけなのか・・・・。そこだけは謎だった。









「今日でとうとう七日目だね。約束の一週間」

「ああ、そうだな。お前は落ちた」

「え・・・・えええぇぇぇ!!」

「何をそんなに驚く?当たり前のことだろう」

「だって、そんなにあっさりと言われると・・・・。テレビとかでもそうじゃん。沢山溜めに溜めまくって、正解、不正解を言ってるじゃん。なのに、亜修羅は何の前触れもなく言うんだもん」

「そうか、そこを突っ込むのなら結果的には文句は無いんだな」

「・・・・」


今回は俺の方が勝っていたようだ。大人げないが、それがとてつもなく嬉しかった。普段から負けてばっかだと、何でもないことで勝っても嬉しいと思う。バカになったな、俺も。こんなことで喜ぶなんて。


「僕、頑張ったじゃん!何でダメなの?」

「いつ、お前に殺されるかわからないからだ」

「どうしてそう思うの?」

「・・・・勘だ」

「勘で僕の人生を決めたって言うの?」

「人生って、大げさだな。こんなんで人生が決まる訳ないだろう」


俺は簡単に言った。しかし、よく考えてみれば、人間でも何かを感じるのか、妖怪を雇ってくれるところは少ない。もし雇ってもらえても、すぐに人間としてはあり得ない失敗をするからクビになる。そんな悪循環の連続なんだ。


「なぁ・・・・」

「じゃあ、もういいよ!ケチ!!」


凛は勝手に逆ギレして行ってしまった。あんまりにも早く事が過ぎて行ってしまったために、あまり認識が定かではなかったが、やっと正常に認識出来るようになった時、凛が泣いていることに気がついた。


さすがに悪いとは思ったが、どこかに行ってしまった後だったから、仕方なく帰路についた。


なぜ、凛を不合格にしたのか。それは、凛に殺されると思ったからではなく、懸賞金の件があるからだ。


確かに、凛は強いが、それと同じくらい単純である。だから、巻き込むのは危険と考えたんだ。本当はもっと違う言い方で言うつもりだったが、言えなかった。


何となく、暗い気持ちで家に帰ると、管理人に怒られた。鍵を開けたまま外出するのは無用心だと。普通は、家の中の参上を言うところだろうが。


管理人が帰った後の部屋は、何だか寂しげに思えた。一人しかいない部屋は、がらんどうで空しささえ感じた。


何とか寂しいと言う気持ちと、凛に悪いことをしたと言う気持ちを忘れるために、寝ようと思ったが、無理だった。


押入れを開けてみると、数匹のゴキブリが動いていた。殺しても殺しても出て来るこいつらは、本当に世界最強の生命力を誇ると言われても違和感はないな。


そんなことを思っていると、凛のことを思い出してしまい、無理やり忘れようと押入れをバンと閉めると、布団の中に潜り込んだ。


しかし、悶々と凛のことばかりが気になり、何事もはかどらなかった。いくら気を逸らそうとしてもだ。


森での出来事から一週間が経った日、奇跡的に凛と会うことが出来た。


すると、自分から突き放しておいて、話しかけてしまった。


「おい・・・・」

「あっ、亜修羅・・・・」


凛は、クルッと背を向けて歩いて行こうとしたが、とっさに手を伸ばして引き止めた。このチャンスを逃したら、多分ないだろう。だから、ここで本当のことを言う。


「待て!!」

「なっ、何さ・・・・」

「話がある!」

「あっ、そう。じゃあ、あそこで」


俺の気迫に押されたような感じで、物凄くうろたえている。指差した先には、公園があった。誰もいないから、何とか話せるだろう。いや、話さなければならない。


「話って何?」

「バイトのことだ」

「ああ、そのこと?気にしなくていいよ。僕も言い過ぎたし。でも大丈夫。バイト見つかったから」


俺は、一瞬迷った。しかし、自分の思ったことは正直に伝えた方がいいと思い、話すことにした。


「あの時、俺の評価では・・・・いや、評価なんかしていなかった。仲間になってもらいたかった。だが、俺に懸賞金がかけられてるってことは、当然、一緒にいる奴も狙われる。だから、お前の強さは知ってるけれど、気が進まなかった。決して、お前が俺を殺しそうだとか言う理由なんかじゃなかったことだけはわかってくれ。じゃあ」


一気に言うと、恥ずかしくなって、立ち上がりかけたが、凛に腕を掴まれた。


「そっか。じゃあ、バイトに入れてくれる?」

「だから言っただろう!お前も巻き込まれるかもしれないんだぞ」

「わかってるって、そんなこと。亜修羅にバイトとして働かせてくれって言った時から知ってた。だから、覚悟なんか十分に出来てる。後は、亜修羅がいいと言うかで僕の採用、不採用が決まるんだよ。どっちの結果が出ても、僕は未だにバイトが見つかってないけどさ」

「・・・・採用」

「聞こえない!」

「採用だ!」


なぜ、凛に怒られなくちゃいけないのかわからないが、喝を入れられたので、さっきの三倍の声で怒鳴ってやった。


耳を塞いでいたけれど、何だか嬉しそうだ。


俺もすがすがしい気持ちがしてよかった。凛も、凛なりに頑張ってくれた。それなのに、信用してやらないのは、可哀想だよな。


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