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想造世界  作者: 玲音
第一章 人間界へ
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人間界への旅立ち

ここは、人間界とは別にある世界、魔界。


ここには、多くの妖怪などが住み着いている。俺もその中の一匹として親父に十六になるまで育ててもらっていた。だが・・・・。


「亜修羅、私は狙われている。だから、亜修羅まで巻き込むのは申し訳ない。だから、一人で人間界に渡ってくれ」

「だけど、親父は・・・・?」

「私がお前について行ったら、逃がす意味が無いじゃないか」

「でも・・・・」

「亜修羅。お前はもう大人だ。一人で人間界で生きて行くことぐらいは出来るはずだ。それとも、人間界が怖いのか?私はそのような臆病者を育ててしまったのか?」

「・・・・わかった。親父、必ず生き延びるんだぞ」

「ああ。亜修羅が帰って来るまで死にはせん。それとも、私がその間に死ぬような弱い妖怪だと思っているのか?」


魔界では、親父の名前を知らない奴などいない。いたら、そいつは人間界にずっといて、魔界の様子を知らなかったのだろう。それくらい、親父は強かった。そして、冷酷だった。


俺に向けられる笑顔は本当のものなのだろうけど、まだ冷たさが拭いきれていないように見える。


「いや、親父。親父の強さは俺が一番よくわかってる。だから、俺は行く。親父の強さを信じて人間界に行って来るよ」

「そうか。覚悟を決めたか。なら、早いうちがいい。明日の朝日が昇る前にでも出発したらいい」

「わかった」


俺は、自分の部屋に行くと、明日の出発のために身支度を整えた。その中には、お袋の形見のペンダントも入っている。


お袋は、俺を生むと直ぐに死んだらしい。元々体が弱かったみたいで、体力的に間に合わなかった。だから、お袋のことは、このペンダントのことぐらいしか知らないのだ。


「今更、お袋のことを考えてもどうにもならないよな」


そう呟き、一回ギュッと手で包み込むようにペンダントを握ると、箱にしまった。


お袋の次は親父が命を狙われている。親父とて、そんなに何年も生き残れるはずはない。俺が帰って来た時には、きっとこの家すら消えているだろう。


お袋は守ることが出来なかったけれど、親父は、俺が守ろうと思えば助けられると思う。俺だって、助けたい。だが、親父の目を見ると、それなりの覚悟の色があった。その覚悟を俺が曲げていいのだろうか?いや、いいはずはない。だから、嫌々ながらも、人間界に行くことを決めたんだ。


人間界と魔界は、異空トンネルで通じている。そのトンネルを抜ければ、簡単に人間界に行くことが出来る。だから、人間界に行く手段はそんなに大変ではない。大変なのは、 人間界での生活方法。普通は仕事か何かを見つけるらしいが、大体は失敗している。だから、俺は、あえて職を取らずに学校とやらに通ってみようと思う。そこで、しばらくの間身を置き、夜になったら何でも屋をすることにする。それが賢い生き方だと親父がこの前言っていた。何でも屋と言うのは、報酬さえもらえれば何でもやる。それが、例え殺しでもやる。逆に、ジュースだって買って来る。


こっちの方が、普通に仕事をやるよりもジャンルがないのだし、金銭的な交渉を上手に話したら、報酬の値を上げることも出来る。


親父は、それをやっていたから冷酷だと言うのだ。今まで、親父は何万人と言う妖怪や人間を殺して来ただろう。それを普通に行っているのだ。冷酷にならないと、そんなことは出来ないはずだ。


そんな恐ろしいことを躊躇いもなくやるものだから、周りの妖怪からも恐れられてるんだ。親父を味方につけるのは凄く心強いが、敵となると、躊躇いもなく殺されるから、恐怖を感じるんだろう。


俺だって、親父が躊躇いも無く妖怪を殺している様子を見て、そんなことをしてもらった金で生活しているのだと思うと、恐ろしくなる。だが、これが一番手っ取りく、尚且つ一番儲かる仕事なんだそうだ。


魔界にも何でも屋は何人もいるが、大体のところは殺しはしない。いくら金を積まれたって、殺しまではしない。でも、親父はそれを引き受けるから、依頼が殺到するのだ。


俺も、何でも屋の仕事を手伝っている。とは言え、殺しはしない。俺が解決出来そうな簡単なものを任されるだけなのだ。


「おい、亜修羅。ちょっと手伝ってくれ!」

「わかった。今行くから待っててくれ」


下からの呼びかけに大声で答えると、荷物を持って下に下りた。









「じゃあ、行って来る」

「ああ。気をつけて行くんだぞ」

「それはこっちの台詞じゃないか。親父」

「そうだな。しかし、私にはもう、お前しか守るものがないのでな」

「今は俺の命よりも、親父の命の方が大事だろ?」


俺が何となく聞くと、親父はうつむいた。何か気に触ることでも言ったのかと思ったが、すぐに顔を上げる。その表情は笑っているのに、なぜかもの凄い悲しみを感じ取れる表情だった。


「いや、私はもっと早くに殺されるべきだったのだ。金をもらう為に、平気で生命を殺して来た私は重大な罪に問われている。それは、死を持っても償い切れない罪だろう。だが、私が生きていたら、また生命を殺すことになるかもしれない。だから、私は死ぬべきなんだよ」

「そんなこと・・・・。じゃあ、俺を追い出すのは、自分の死を俺に見せたくないからなのか?」

「そう言うことになるかもしれんな。それに、もう疲れたのだよ。己を心の芯まで冷酷にして、生命を殺すことなど。しかし、今の私は、自分でも制御出来ないまま、また生命を殺すだろう。なら、こうするしか止める手は無いのだ」

「だけど・・・・」


俺は、親父の目を見た。その目は、覚悟の色をしている。そう言えば、生命を殺す時の親父の目も、いつもこうだった。親父は、こうなることをわかっていて殺していたんだ。


「ああ、わかった。なら、これだけは約束してくれ。向こうでは必ず殺すな。人助けをするんだ」

「それぐらい、喜んでやるさ」


親父の言葉を聞くと、何とも言えない気持ちになり、涙が出て来る。慌てて後ろを向いて表情を隠す。親父の前で泣くなんて、みっともなくて、一生笑いのネタにされる。でも、その一生も、直ぐに終わってしまう。


「じゃあ、行って来るからな」

「ああ、気をつけるんだぞ」


震えるし、かすれるしで、全く聞こえなかったであろう俺の言葉を、親父は聞き返しもせずに答えてくれた。


これ以上いても、ただ涙が止まらなくなるだけだ。だったら、いても仕方がないだろう。


涙も拭わないまま、走り去るように親父から離れた。これが、親父との最後の別れだ。そう思うと、どうにもならない気持ちになるけれど、俺が泣いたってどうこうする問題じゃない為、必死で涙を止めた。


しばらく歩くと、異空トンネルのある洞窟についた。辺りは誰もいないから、今の今まで泣いていたなど見られる者もいず、内心ホッとした。


洞窟を一望してから洞窟内に入る。中は暗くてじめじめしていて、とても居心地のいいと言える場所ではなかった。しかし、異空トンネルに向かうには、この道を通らないと行けないのだ。


随分と歩いたけれど、先が全然見えない。と言うか、入って来た場所さえ見えない。入り口付近ではわずかにあった光も、消えてしまったのだ。仕方ないから、嗅覚と聴覚で辺りの安全を確かめる。視力はあてにはならない。さっきも吸血蝙蝠に血を吸われかけたところだ。


神経を耳と鼻に集中して歩いていると、足元がおろそかになった。と言うのも、足下にある穴に気がつかなかったのだ。まぁ、どっち道見えていなかっただろう。真っ暗闇だったから。


俺は、とっさに手を伸ばしたが、穴の上には届かず、無様にも穴の中に落っこちた。暗闇の中、底知れぬ穴に落ちるのは恐怖だが、同時にワクワクもした。きっとここが異空トンネルなのだ。ここを出れば、きっと人間界に出る。


ずっと下を見ていたが、ずっと暗くて何も見えない。随分長いトンネルだと思っていると、急に足元が明るくなった。すると、一気に視界が開けて、俺は異空トンネルから落とされた。


異空トンネルは、そのまま姿を消した。そして、俺だけがここにいる。


周りは木に沢山囲まれており、狐の俺にはいい環境だった。


「ここが、人間界か・・・・」


何とも言えない嬉しさがこみ上げて来て、思わず呟いていた。


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