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ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


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92/346

92話

翌朝、リルドはいつものようにギルドの扉を開けた。館内は「あの新作のロマンス小説、最後が泣けるんだよ」といった話し声で相変わらず賑やかだ。

リルドは掲示板の端から、自分のペースにぴったりの『薬草採取』の依頼札を剥がし、受付へと向かった。

「おはよう、受付さん。今日もこれをお願いするよ」

「おはようございます、リルドさん。はい、受理いたしま……」

受付嬢が手続きをしようとしたその時、横からガサリと二枚の依頼札が置かれた。

「おい、これ頼むわ」

声をかけてきたのは、鋭い目つきをしたCランク冒険者の男だった。

「あ、はい! Cランクの討伐依頼ですね、喜んでお受けします!」

受付嬢が少し緊張した面持ちで対応する。リルドは気にせず「それじゃ、行ってくるね」と会釈してギルドを出た。

森へ向かう道すがら、偶然にもそのCランク冒険者と同じ方向になった。

「……あんた、そんな装備で森の奥へ行くのか? 死ぬぞ」

男はリルドの軽装を見て鼻で笑ったが、リルドは「あはは、僕は入り口の方で草を摘むだけだからね」と穏やかに返した。

しばらくはつかず離れずの距離で歩いていたが、リルドが薬草の群生地を見つけると、男は「ふん、ままごとでもしてな」と言い捨てて、さらに険しい森の深部へと消えていった。

リルドが丁寧に薬草を摘み終え、籠いっぱいの緑を抱えて帰り道を歩いていると、前方から激しい怒号と、魔獣の不気味な咆哮が聞こえてきた。

「くそっ! なんでこんな所に上位種が……!」

見れば、先ほどのCランク冒険者が、数体の魔獣に囲まれ、肩を貸しながら苦戦を強いられていた。彼の剣は折れ、絶体絶命の状況だ。

(……お散歩の邪魔をさせるわけにはいかないね)

リルドは足元に落ちていた、なんの変哲もない一本の木の棒を拾い上げた。

彼はかつて埋め尽くした「魔術ツリー」の端くれを使い、その棒にほんの少しだけ、衝撃を増幅させる魔力を込める。

「よっと」

軽く手首をスナップさせて投げた木の棒は、空気を切り裂く鋭い音を立てて飛んでいき、魔獣の眉間に吸い込まれるように命中した。

――ゴンッ!

「ギャフン!?」

強大な魔獣は、ただの棒切れに当たったとは思えないほどの衝撃で目を回し、その場でドサリと倒れ伏した。

「え……?」

呆然とするCランク冒険者を余所に、リルドは「今のうちに逃げたほうがいいよ」とだけ声をかけ、スタスタと街の方へ歩き出した。

夕刻、リルドはギルドに戻り、いつものように受付へ向かった。

「ただいま、受付さん。薬草、持ってきたよ」

「おかえりなさい! ……あれ、リルドさん。さっきCランクの方が真っ青な顔で戻ってきて、『空飛ぶ木の棒に救われた』ってうわ言のように繰り返してましたけど……何か見ませんでした?」

「あはは、森には不思議なこともあるもんだね。きっと森の精霊さんが悪戯したんじゃないかな」

リルドは報酬の銅貨を受け取ると、満足げに微笑んでギルドを後にした。

「さて、僕も今夜は、拾った枝で新しいお箸でも削りながら、ゆっくりお茶にしようかな」

万年Fランク冒険者の日常は、驚愕する周囲を余所に、どこまでも穏やかに更けていく。


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