81話
翌朝、リルドがギルドの扉を開けると、そこにはいつも通りの活気ある喧騒が広がっていた。数日前に新人冒険者を助けたことなど、当事者以外は誰も気にしていない。それがこの場所の良さだと、リルドは心地よく感じていた。
「……おや、これ。お散歩には最高かもしれないね」
リルドが見つけたのは、掲示板の下の方に追いやられていた『温泉の調査』と『温泉饅頭の納品』の依頼。
「温泉の様子を見て、お土産をギルドに持ってくればいいのかな?」
リルドがその札を剥がすと、今回はDランク冒険者の青年・ルシドと同行するよう受付で案内された。
「リルドさん、よろしくお願いします! Dランクのルシドです。……うわぁ、本当に綺麗な方だ」
「僕はリルド。よろしくね、ルシドくん」
二人は街から少し離れた山間にある温泉地へと向かった。
まずは源泉の状態を確認するため、間欠泉の調査を開始する。リルドは「視野拡大」を使い、地中の魔力の流れや温度の偏りを一瞬で把握した。
「うん、地脈の乱れもないし、お湯の質も安定しているよ」
「流石ですね、リルドさん。作業が早すぎて僕の出番がないくらいだ」
ルシドが感心する中、調査は滞りなく終了。その後、二人は土産屋に立ち寄り、蒸したての香ばしい匂いが漂う『温泉饅頭』を必要数購入した。
「リルドさん、せっかくここまで来たんです。……一っ風呂、浴びていきませんか?」
ルシドからの爽やかな提案に、リルドも「そうだね、疲れも取れるし」と快諾した。
脱衣所で服を脱ぎ、湯気に包まれた大浴場へ。
リルドの肌は、透き通るように白く、無駄な脂肪のないしなやかな体つきをしていた。湯船に浸かると、隣に座ったルシドが、なぜか顔を真っ赤にしてじっとこちらを見ている。
(……ルシドくん、さっきからずっとこっちを見てるけど……)
(……まさか、僕の体に、何かおかしなところでもあったかな?)
「あの、リルドさん……その、肌、すごく綺麗ですね。女性かと思うくらいで……」
「あはは、よく言われるよ。でも、ちゃんと男の子だからね」
リルドは困ったように笑い、肩までお湯に浸かった。そんな彼を見て、ルシドは「……知ってますけど、でも、やっぱり……」と小声で何かを呟き、のぼせたように顔を伏せていた。
夕刻、リルドとルシドはギルドに戻り、完了の報告をした。
「ただいま、受付さん。温泉の調査結果と、お土産の温泉饅頭だよ」
「おかえりなさい、お二人とも! わあ、お饅頭! ギルドのみんなでいただきますね。……あら、ルシドさん、顔が真っ赤ですよ? 湯あたりですか?」
「……ええ、まあ、そんな感じです。ちょっと刺激が強すぎたというか……」
ルシドはフラフラと椅子に座り込み、リルドはいつも通りの涼しい顔で報酬の銀貨を受け取った。
「さて、僕も今夜は、温泉の余韻を楽しみながら、お土産の余りの饅頭でお茶にしようかな」
万年Fランク冒険者の日常は、新しい同行者との少し「熱い」思い出を乗せて、穏やかに更けていく。




