77話
ギルドを出たリルドは、ずっしりと重い袋を手に、夕暮れに染まる街を歩いた。
家に帰り着くと、床下の秘密の隠し場所にしまってある、古びた、けれど手入れの行き届いた貯蓄箱を取り出す。
「これだけあれば、しばらくはお散歩に専念できそうだね」
蛙さんからもらった古銭の鑑定料を含めた金貨を、数枚だけ残して箱に収める。チャリン、という澄んだ音を聞きながら蓋を閉じ、代わりに日常の買い物に必要な分だけの硬貨を革袋に詰め直した。
再び街へ繰り出したリルドは、活気あふれる噴水広場へと向かった。
広場の中心では水が涼やかに跳ね、その周囲には香ばしい匂いを漂わせる屋台が立ち並んでいる。
「おじさん、その串焼きを一本。あと、こっちの甘い果実のパイもひとつ」
焼きたての肉から溢れる肉汁と、サクサクのパイ生地からこぼれる甘酸っぱいジャム。リルドは噴水の縁に腰掛け、賑やかな街の音を聞きながら、至福のひとときを過ごした。
(……やっぱり、自分の手で稼いだお金で食べるご飯は、格別だね)
お腹を満たした後は、馴染みの洋服店へと足を運んだ。
店内に並ぶ色とりどりの布地を眺めながら、リルドは「お散歩に合う、動きやすくて丈夫なもの」を選んでいく。
「これと、この落ち着いた緑のシャツ。あとは……この少し厚手のズボンを二着もらおうかな」
試着室の鏡の前で新しい服に袖を通すと、心なしか気分も新しくなる。結局、日常使いのシャツと、少しお洒落な外出用のセットアップを合わせて合計4着を購入した。
店主のおばさんは「あんたはスタイルが良いから、何を着ても似合うねぇ」と、おまけに刺繍入りのハンカチを付けてくれた。
両手に新しい服の包みを抱え、リルドはすっかり夜の帳が下りた街を歩いた。
家に戻ると、庭先ではあの猫が香箱座りをして待っていた。
「ただいま。ほら、お土産の干し魚だよ」
猫に小さなご褒美を差し出し、リルドは玄関の扉を開けた。
新調した服を棚に並べ、窓を開けて夜風を入れ替える。部屋の中には、昼間に摘んできた薬草の残り香が微かに漂っていた。
「さて、僕(僕)も今夜は、新しい服に袖を通す明日を楽しみに、ゆっくりと眠りにつこうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、美味しい食事と新しい装いに心を躍らせながら、静かに更けていく。




