表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/308

73話

リルドがギルドの扉を開けると、そこにはいつも通りの、どこか気の抜けたような穏やかな空気が流れていた。

昨日の「愛の告白騒動」や「絶世の美青年」の噂も、新しい一日の喧騒に飲み込まれ、今や誰の口からも出てこない。

「昨日の夢に巨大なプリンが出てきてさ……」

「今日のランチ、ギルド飯の新作らしいぜ。楽しみだな」

そんな他愛もない会話が飛び交う中、リルドは掲示板の前へ。

「今日は……これとこれかな。久しぶりに大物を狙ってみよう」

彼が剥がしたのは、基本の『薬草採取』と、長らく放置されていた『フリアの池の主釣り』の二枚だった。

「おはよう、受付さん。今日は池の方まで行ってくるよ」

「おはようございます、リルドさん。……えっ、フリアの池の主ですか? あれ、もう何年も誰も釣り上げられていないんですよ。糸を切られるだけじゃなくて、釣り竿ごと持っていかれるって有名なんですけど……受理しますね。お怪我のないように!」

「うん、お魚さんとお話ししてくるよ。行ってきます」

リルドはまず、池へと続く道すがら、木漏れ日の中で輝く薬草を丁寧に摘み取った。籠の中は、爽やかな緑の香りと、ほんのりとした魔力の輝きで満たされていく。

やがて到着した「フリアの池」は、鏡のように静かな水面を湛えていた。

リルドは手ぶらで岸辺に立つと、足元に落ちていた手頃な長さの木の枝を拾い上げた。

「(さて、これでいいかな)」

彼は願うように心の中で念じた。すると、手元に丈夫な釣り糸と、鈍く光る特製の釣り針が現れた。彼はそれを手際よく木の枝に結びつけ、即席の、しかし世界に二つとない強靭な釣り竿を作り上げた。

餌は、先ほど摘んだ薬草の根元にいた小さな虫。

「……お待たせ。お腹、空いてるだろう?」

ひょいと糸を投げ入れると、数分もしないうちに、水面が爆発したかのような激しい水しぶきが上がった。

凄まじい力で引き込まれる糸。普通の冒険者ならここで竿を折られるところだが、リルドは「聴覚向上」で水中の振動を読み取り、魚の動きを完璧に先読みしていた。

「……暴れなくても大丈夫だよ。少しだけ、街のみんなに顔を見せてあげて」

リルドがそっと魔力を糸に伝わせると、暴れていた「主」――体長二メートルを超える黄金の巨大魚――は、不思議と大人しくなり、吸い寄せられるように岸へと上がってきた。

夕刻、リルドは巨大な黄金の魚を、魔法で重さを消した状態でひょいと担ぎ、ギルドに姿を現した。

「ただいま、受付さん。池の主、連れてきたよ」

「おかえりなさ……えええええええっ!? 何ですかその巨大な黄金の塊は!? まさか、本当にフリアの池の主!? しかも、その即席すぎる木の枝で釣ったんですか!?」

ギルド中の冒険者たちが「ランチ」や「夢」の話を止め、驚愕の表情でリルドを囲んだ。

「あはは、運良く食い付いてくれたんだよ。薬草もたくさん採れたし、いいお散歩だった」

リルドは驚きで固まっている受付嬢から、多額の報酬金を受け取ると、いつものようにふわりと微笑んでギルドを後にした。

「さて、僕(僕)も今夜は、主が教えてくれた美味しい湧き水で、温かいスープでも作ろうかな」

万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも知られない超常の成果を「ただの幸運」に変えて、穏やかに更けていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ