7話
雲ひとつない快晴の午後。
リルドはいつもの河原へとやってきていた。
今日は依頼も早々に切り上げ、以前見つけたお気に入りの白い石が並ぶ、浅瀬のポイントに腰を下ろす。
「ふぅ……。今日は一段と暑いな。絶好の水浴び日和だ」
リルドは慣れた手元で服を脱ぎ、岩陰に丁寧に畳んで置くと、ゆっくりと川の中へ足を踏み入れた。
ひんやりとした水の感触が、肌を心地よく刺激する。
「冷たくて気持ちいい……」
腰のあたりまで水に浸かり、リルドはぷかぷかと水面に身を任せた。
透き通った水の中を、小さな川魚たちが彼の周りを恐れることもなく泳ぎ回っている。
彼が放つ穏やかな気配は、自然界の生き物たちにとっても、ただの風景の一部のように感じられるのだろう。
リルドが目を閉じて水の音を楽しんでいると、上流の方から騒がしい足音が聞こえてきた。
「逃げろ! あれは『アビス・サーペント』の変異種だ! 攻撃が通じないぞ!」
Dランクの冒険者パーティーが、必死の形相で川岸を走っていた。
彼らの背後からは、川を割るようにして巨大な水蛇が迫っている。本来、この川にはいないはずの魔物だ。
水蛇が大きく口を開け、逃げ遅れた冒険者に飛びかかろうとした。
「……あーあ。せっかく静かだったのに。水が濁っちゃうよ」
リルドは水に浸かったまま、面倒そうに片手を上げた。
そして、水面に浮かんでいた小さな木の枝を、指先でピンッと弾く。
シュッ、という小さな音と共に、木の枝は水面を滑るように飛んでいった。
それは、獲物を狙う水蛇の眉間を、優しく「コン」と叩く。
たったそれだけだったが、水蛇の巨体はまるで時間が止まったかのように硬直した。
次の瞬間、水蛇は自分に何が起きたのかも理解できぬまま、ふにゃふにゃと力を失い、そのまま川底へと沈んでいった。
「よし、これでまた静かになるね」
変わらない午後のひととき
「え……? 今、何が起きたんだ……?」
呆然と立ち尽くす冒険者たちは、水面にぷかぷかと浮かぶリルドの姿を見た。
しかし、彼らにはリルドがただ水浴びを楽しんでいる、呑気なFランクの青年にしか見えない。
「あ、君たち。あんまり騒ぐと魚が逃げちゃうよ。あっちの方にいい休憩所があるから、そこで休んだら?」
リルドがのんびりと指差すと、冒険者たちは顔を見合わせ、「……あ、ああ。すまない」と、狐につままれたような顔で去っていった。
再び、河原にはせせらぎと鳥のさえずりだけが戻ってくる。
リルドは岸に上がり、太陽の光で温まった岩の上で体を乾かし始めた。
「うん、いい感じに乾いてきた。帰りにまた新しい石を探していこうかな」
夕暮れ時。
リルドは、水浴びですっかり軽くなった体で、籠にいくつかの綺麗な小石を詰め込んで家路についた。
ギルドではまた「川にいたFランクが幸運にも魔獣の自滅を生き延びた」なんて噂が広がるかもしれないが、彼にはどうでもいいことだった。
今夜は、水浴びで冷えた体を温めるために、ハーブをたっぷり入れたスープを作ろう。




