66話
翌朝、リルドは窓の外で川辺へと急ぐ水鳥たちを眺めながら、「今日はキラキラしたものを探しに行こうか」と独り言を漏らし、ギルドへと向かった。
ギルド内は、昨日リルドが「時計の歯車」を一瞬で見つけ出した話が広まっており、一部の冒険者が「あいつの目は魔力眼か何かか?」と遠巻きに観察していた。リルドはそんな視線を気に留めることもなく、掲示板の隅から二枚の依頼札を剥がした。
「おはよう、受付さん。今日はこの二つをお願いするよ」
「おはようございます、リルドさん。……あ、『砂金の採取』ですね。根気のいる作業ですし、腰を痛めないように気をつけてくださいね」
「うん、ありがとう。お水遊びのついでにやってくるよ」
リルドはまず、川へと続く道すがら、朝露に濡れた瑞々しい薬草を丁寧に摘み取った。彼が摘む薬草はどれも色が濃く、籠の中からは生命力に満ちた香りが立ち上っている。
川辺に到着すると、リルドはさらさらと流れる清流に素足を浸した。
「冷たくて気持ちいいね……」
彼は「視野拡大」の力をふんわりと使い、砂利の間に混じった微かな黄金の輝きを見つけ出していく。本来なら専用の皿で何度も揺すって選別する作業だが、リルドが水面に指を浸して軽く回すと、水の流れが意志を持ったかのように砂金を一箇所に集めてくれた。
「よし、これで依頼の分は十分だね。……おや、この綺麗な小石は庭に飾ろうかな」
砂金と薬草を抱え、満足げに街への帰り道を歩いていると、前方から同じFランクの新人冒険者のグループがやってきた。
「あ、見て……。あの人、すごく綺麗……」
「本当だ。なんていうか、雰囲気がすごくかわいいよね」
すれ違いざま、彼らはリルドを見て顔を赤らめながらそう囁き合った。
リルドは首を傾げ、自分の服に何か付いているのかと見回したが、特に変わった様子はない。
「……?? 僕、何かついてたかな。……まあいいか。お天気がいいから、みんな機嫌がいいんだろうね」
本人は全く自覚がないまま、ふわりとした穏やかな微笑みを浮かべて歩き続けた。
夕刻、リルドはギルドに戻り、小瓶に入った砂金と薬草を受付に置いた。
「ただいま、受付さん。砂金、集めてきたよ。川のお水がとても綺麗だった」
「おかえりなさい、リルドさん! ……えっ、こんなにたくさんの砂金を一日で!? 熟練の採掘師でも難しい量ですよ。……それにリルドさん、なんだか今日はいっそう……その、キラキラして見えますね」
「あはは、砂金の光が移っちゃったのかな。……あ、そういえば帰り道に『かわいい』って言われたんだけど、僕の顔に泥でもついてたかな?」
「あ……。いえ、それはきっと……そのままでいいと思います」
受付嬢は顔を少し赤らめて苦笑いし、報酬の銅貨を手渡した。
「さて、僕(僕)も今夜は、川で冷やした果物でも食べて、ゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも気づかれない美しさを纏いながら、穏やかに更けていく。




