65話
翌朝、リルドは窓辺で羽を休める小鳥に「今日は探し物のお手伝いだよ」と声をかけ、いつものようにギルドへと向かった。
ギルド内は、昨日「神の薬草」を拾ったCランクパーティーが、「あの場所には癒しの聖域があるに違いない」と地図を広げて議論を戦わせていた。リルドはそんな喧騒をさらりと聞き流し、掲示板の隅に貼られた二枚の依頼札を手に取った。
「今日はこれと、これ。歯車なんて珍しい依頼だね」
彼が剥がしたのは、いつもの『薬草採取』と、『なくした歯車を探してほしい』というもの。
「おはよう、受付さん。今日はこの二つに行ってくるよ」
「おはようございます、リルドさん。あ、その歯車の依頼……時計職人の頑固なおじいさんが出したものなんです。森の広場付近で落としたらしいんですが、かなり小さいパーツみたいで誰も見つけられなくて。受理しますね、頑張ってください!」
「うん、お散歩ついでに目を凝らしてくるよ」
リルドはまず、道中の陽だまりで瑞々しい薬草を丁寧に採取した。
その後、指定された場所へと向かうと、そこには一本の大きな古木の下で、老人が地面を這うようにして何かを探していた。
「こんにちは。ギルドから来たリルドです。歯車を探しに来たよ」
「おお、あんたか……。わしの不注意でな。先祖代々伝わる古い時計の、一番大事な歯車をここで落としてしまったんじゃ。魔獣に驚いて転んだ拍子にどこかへ……。小さいし、もう見つからんかもしれん」
老人は肩を落として力なく笑った。リルドは「大丈夫、きっとすぐに見つかるよ」と穏やかに微笑むと、そっと「視野拡大」と「言語理解(自然のささやき)」を働かせた。
(……風に運ばれた音、草が隠した金属の冷たさ……あそこだね)
リルドは数歩歩くと、重なり合った落ち葉の隙間に指を差し入れた。そこには、鈍い金色に輝く、精密に細工された小さな歯車が挟まっていた。
「これかな? 木の根っこが守ってくれていたみたいだよ」
「おおお! 間違いない、これじゃ! まさかこんなに早く……。あんた、ただ者じゃないな!」
夕刻、リルドはギルドに戻り、報告を済ませた。
「ただいま、受付さん。薬草を持ってきたよ。歯車も無事におじいさんに返せた。すごく喜んでくれたよ」
「おかえりなさい! ……えっ、あの歯車を見つけたんですか!? ベテランの斥候でも見つけられなかったのに……。職人さん、さっきギルドに連絡をくれましたよ。『最高の幸運を運ぶ冒険者がいた』って」
「あはは、運が良かっただけだよ。お日様の光がちょうど歯車に反射して教えてくれたんだ」
リルドはとぼけた顔で報酬の銅貨を受け取ると、満足げに微笑んでギルドを後にした。
「さて、僕も今夜は、あのおじいさんにお礼でもらったお菓子を食べて、ゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも知られることのない鋭い観察眼を秘めて、穏やかに更けていく。




