表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/184

64話

翌朝、リルドは窓の外で楽しげに飛び跳ねる野ウサギを眺めながら、「今日は少し、土の匂いを確認しに行こうかな」と独り言を漏らし、いつものようにギルドへと向かった。

ギルド内は、昨日峠から戻ってきたBランクパーティーが「あんなに綺麗な道、人の手で作れるはずがない!」と熱弁を振るっており、相変わらずの賑やかさだった。リルドはそんな喧騒に混ざることなく、掲示板の端っこに並んでいた二枚の依頼札を静かに剥がした。

「おはよう、受付さん。今日はこの二つをお願いするよ」

「おはようございます、リルドさん。はい、『薬草採取』と『付近の調査』ですね。調査場所は少し奥まった谷間ですから、足元に気をつけてくださいね」

「うん、ありがとう。お散歩がてら、ゆっくり見てくるよ」

リルドはまず、街道沿いの茂みで瑞々しい薬草を丁寧に摘み取った。彼の手が触れると、薬草は本来持っている治癒の力を最大限に引き出され、籠の中で淡い光を放っているようにも見える。

その後、指定された調査場所である谷間へと向かった。

「さて、ここが調査地点だね……」

リルドは立ち止まり、そっと地面に手を触れた。彼が「聴覚向上」の感覚を地面に沈めると、大地の震えから、そこが単なる崩落ではなく、地下を流れる水脈が少し形を変えただけだと理解した。

「うん、特に危ない魔獣の気配もない。ただ、土が少し喉を乾かしていただけだね」

リルドは調査記録を紙に書き留めると、満足げに立ち上がった。

調査を終えて帰り道を歩いていると、岩場の方から激しい金属音と怒鳴り声が聞こえてきた。

覗いてみると、Cランクの冒険者パーティーが、不運にも群れからはぐれた獰猛な魔獣に囲まれ、苦戦を強いられていた。

「くそっ、回復薬がもう切れた!」「持ちこたえろ、なんとか逃げるんだ!」

彼らは傷を負い、疲労困憊の様子だった。

リルドは関わり合いを避けるように背を向けようとしたが、ふと足を止め、自分の籠の中を見た。

(……あんなにボロボロじゃ、街まで保たないかもしれないね)

リルドは姿を見せないよう、気配を完全に消して彼らのすぐ近くまで移動した。そして、岩陰に今摘んだばかりの最高品質の薬草を数本、そっと置いてその場を離れた。

「……ん? なんだ、この草。……おい、これ、ただの薬草じゃないぞ! 触れるだけで傷が塞がっていく……!」

驚愕する冒険者たちの声を背中で聞きながら、リルドは「お大事に」と小さく呟き、鼻歌を歌いながら街へと戻っていった。

夕刻、リルドはギルドに戻り、報告を済ませた。

「ただいま、受付さん。調査は完了したよ。特に異常はなかった。薬草は……あ、途中で少し落としちゃったから、残りの分だけ納品するね」

「おかえりなさい! 調査報告、承りました。……あ、あれ? リルドさん、さっきのCランクパーティーが血相を変えて戻ってきて、『道端に神の薬草が落ちていた!』って大騒ぎしてますよ。何か知りませんか?」

「神の薬草? ……あはは、きっと森の精霊さんが、うっかり落とし物をしちゃったんじゃないかな。僕はただ、お散歩をしていただけだよ」

リルドはとぼけた顔で報酬の銅貨を受け取ると、家路についた。

「さて、僕も今夜は、残った薬草を少しだけ煎じて、のんびりお茶でも楽しもうかな」

万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも知られることのない小さな慈愛を残して、穏やかに更けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ