61話
翌朝、リルドは窓の外で元気に囀る小鳥たちに「今日は少し遠くまで歩いてみようか」と微笑みかけ、いつものようにギルドへと足を運んだ。
ギルド内は、昨日リルドが納品した「水晶のように透き通ったポーション」の話題で、朝から錬金術師たちが「あれはどこの工房の品だ」と騒ぎ立てていた。リルドはそんな喧騒の脇を通り抜け、掲示板の隅に貼られた、一際地味な依頼札を手に取った。
「今日は……これにしようかな。ちょうど気になっていた場所だ」
彼が剥がしたのは、『古戦場跡の清掃と、そこに咲く夜光草の採取』。不気味な噂が絶えず、普通の冒険者が敬遠する場所の依頼だ。
「おはよう、受付さん。今日はここに行ってくるよ。掃除をすれば、土地も落ち着くはずだからね」
「おはようございます、リルドさん。……あそこは幽霊が出るなんて噂もありますけど、リルドさんなら、幽霊ともお友達になって帰ってきそうですね。気をつけてください!」
街から数時間歩いた先にある古戦場跡は、昼間でも薄暗く、ひんやりとした空気が漂っていた。しかし、リルドが一歩足を踏み入れると、彼の持つ穏やかな気配が周囲の淀んだ空気をスッと浄化していく。
「さて、まずは綺麗にしようか」
リルドは持参した箒を取り出すと、土に埋もれた古い武具の破片やゴミを丁寧に片付けていった。彼が地面を掃くたびに、重苦しかった土地の気配が軽くなり、眠っていた植物たちが息を吹き返していく。
作業を終える頃、岩陰にひっそりと、月光を吸い込んだように白く輝く**『夜光草』**が顔を出した。
「おや、待たせてごめんね。君を必要としている人がいるんだ」
リルドが優しく指を触れると、夜光草は一番の輝きを放ちながら、自らリルドの手の中に収まった。
掃除を終えて帰り道を歩いていると、背後から「カサ……カサ……」と何かがついてくる気配がした。
リルドが足を止めて振り返ると、そこには一匹の、透き通った体を持つ『精霊の幼体』が、不安そうにリルドを見上げていた。
「おや、君も綺麗になった場所が気に入ったのかい?」
リルドが腰を下ろして手を差し出すと、精霊は嬉しそうにリルドの指先に触れ、淡い光を放った。リルドは「街の近くまでなら、一緒に歩こうか」と提案し、精霊と共に静かな森の道を歩いた。
精霊がそばにいるおかげで、周囲の花々が次々と開花し、リルドの歩く後ろには「花の道」が出来上がっていった。
夕刻、リルドはギルドに戻り、小瓶に入った夜光草を受付に置いた。
「ただいま、受付さん。依頼の品と、掃除も終わったよ。あそこ、意外といい場所だったよ」
「おかえりなさい! ……うわあ、この夜光草、まるで生きているみたいに輝いてる! それにリルドさん……なんだか、すごくいい香りがしますね? 森の精霊に祝福されたみたいな……」
「あはは、お散歩の途中で、ちょっといい風に当たっただけだよ」
リルドはとぼけた顔で報酬の銀貨を受け取ると、家路についた。
「さて、僕も今夜は、掃除で使った道具を手入れして、ゆっくり休もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも気づかれない「世界の掃除」を終えて、穏やかに更けていく。




