60話
翌朝、リルドは窓の外で元気に囀る小鳥たちに「今日も穏やかな一日になるといいね」と微笑みかけ、いつものようにギルドへと足を運んだ。
ギルド内は、昨日リルドが納品した「ポーション(中)」の驚異的な品質について、一部の鑑定士たちが「あれは幻の製法ではないか」と騒ぎ立てていた。リルドはそんな喧騒に巻き込まれないよう、掲示板の端に並んでいた二枚の依頼札を静かに手に取った。
「今日はこれと、これ。一番の基本に戻ろうかな」
彼が剥がしたのは、『薬草採取』と『ポーション(小)の納品』。
「おはよう、受付さん。今日はこの二つをお願いするよ」
「おはようございます、リルドさん。はい、受理しました。……リルドさんが作るポーションなら、小サイズでもきっと素晴らしい効果なんでしょうね。期待していますよ!」
「あはは、ただの飲みやすいポーションだよ。それじゃ、行ってくるね」
リルドは街の喧騒を離れ、木漏れ日が差し込む穏やかな森の小道を歩いていた。
彼はまず、道端に咲く瑞々しい薬草を、土を傷めないよう丁寧に摘み取っていく。リルドが指を触れるだけで、薬草は本来の生命力を輝かせ、籠の中は爽やかな緑の香りでいっぱいになった。
採取を終え、川のせせらぎが聞こえる岩場に座ると、リルドは持参した小瓶を取り出した。
「さて、お散歩の仕上げだね」
リルドは瓶に汲んだ清らかな水に、今摘んだばかりの薬草の雫を垂らし、そっと掌で包み込んだ。微かな魔力を通すと、水は透き通った淡い緑色に染まり、見るからに体に良さそうな「ポーション(小)」が完成した。
その時、近くの茂みから一匹の野良猫がひょっこりと顔を出した。リルドは「おや、こんにちは」と挨拶し、自分用に持ってきたおやつを少しだけ分けてあげた。猫は喉を鳴らしてそれを受け取ると、リルドの足元に体を「すりすり」と寄せてから、森の奥へ消えていった。
夕刻、リルドは夕焼けに染まる道をのんびりと歩き、ギルドに戻った。
「ただいま、受付さん。依頼の品、持ってきたよ」
「おかえりなさい、リルドさん! お疲れ様です。……うわあ、このポーション、小サイズなのに水晶みたいに透き通っていますね。これなら怪我をした冒険者たちもすぐに元気になるはずです」
「それは良かった。道中で出会った猫も、元気そうに走り回ってたよ」
リルドはとぼけた顔で報酬の銅貨を受け取ると、軽く手を振ってギルドを出た。
「さて、僕も今夜は、残った薬草で温かいお茶でも淹れて、ゆっくり本でも読もうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも知られることのない確かな技術を添えて、穏やかに更けていく。




