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ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


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56/96

56話

翌朝、ギルドの扉を開けると、いつも以上の熱気がリルドを包み込んだ。

「おい! あの東の森の主が動いたらしいぞ!」「マジかよ、Bランク以上の招集がかかるんじゃないか?」と、血気盛んな冒険者たちが武器を手に騒ぎ立てている。

リルドはそんな喧騒の波に呑まれることなく、静かに掲示板の前へと歩み寄った。

「うーん……みんな忙しそうだね。僕は僕の仕事をしようかな」

リルドは掲示板の隅、騒がしい連中の影になって誰も目を通していない古い依頼札をじっと見つめ、一枚だけ「スッ」と剥がして受付へと持っていった。

「おはよう、受付さん。今日はこれをお願いするよ」

「おはようございます、リルドさん。……えっ、その依頼ですか? 『古い石像に供えるための、朝霧に濡れた蒼蓮華あおれんげの採取』……。これ、場所も指定されていないし、何より蒼蓮華は一日のうち数分しか開花しないから、誰も受けなかった幻の依頼ですよ?」

「ふふ、大丈夫。場所には心当たりがあるんだ。お散歩がてら見てくるよ」

リルドが向かったのは、街から遠く離れた、深い森の奥にある名もなき古い池だった。

普通の冒険者なら魔獣の気配に怯えるような静寂の中、リルドは「お邪魔するよ」と水面に一歩近づく。

まだ朝の冷気が残る中、池の中央に一輪のつぼみがあった。

リルドがそっと目を閉じ、周囲の自然と魔力を同調させると、朝日が水面に差し込んだ瞬間、蕾が音もなく解け、透き通るような蒼い花びらが開いた。

「うん、いい香りだ。待たせてごめんね」

リルドは茎を傷めないよう、指先から微かな魔力の刃を出し、一瞬で蒼蓮華を採取した。花が閉じるよりも早く、彼はあらかじめ用意していた「鮮度を保つ水」を入れた小瓶にそれを収めた。

採取を終え、籠を背負って帰り道を歩いていると、街道脇の草むらで小さな親子の鹿が怯えて震えていた。遠くで冒険者たちが追いかけている魔獣の咆哮が聞こえ、森の動物たちがパニックになっているようだった。

リルドは立ち止まると、親子の鹿に優しく手をかざした。

「大丈夫。ここなら誰も見つけられないよ」

リルドが微かな隠蔽の魔力を周囲に馴染ませると、親子の鹿の姿は背景の緑に溶け込み、近くを通り過ぎようとした魔獣も彼らに気づくことなく走り去っていった。リルドは安心したように一度だけ頷くと、再び歩き出した。

夕刻、リルドはギルドに戻り、小瓶に入った蒼蓮華を受付に置いた。

「ただいま、受付さん。蒼蓮華、一番いい状態で採ってこれたよ」

「おかえりなさい! ……えええっ!? 嘘、本当に蒼蓮華じゃないですか! しかもこんなに瑞々しいなんて……依頼主の神官様が泣いて喜ぶわ。リルドさん、一体どうやって見つけたんですか?」

「あはは、運が良かったんだよ。お散歩の途中で、ちょうどお花が挨拶してくれたんだ」

リルドはとぼけた顔で報酬の銀貨を受け取ると、軽く手を振ってギルドを出た。

「さて、僕も今夜は、あのお花のような綺麗な色のハーブティーでも淹れようかな」

万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも知られることのない奇跡を摘み取って、穏やかに更けていく。


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