49話
翌朝、リルドは窓の外を見て、雲ひとつない青空に小さく頷いた。
「今日は絶好の収穫日和だ。お昼寝にも良さそうだけどね」
ギルドの喧騒をさらりと受け流し、彼は掲示板の端に並んでいた二枚の依頼札を手に取った。
『薬草採取』と、『しめじ茸の採取』。
「おはよう、受付さん。今日はこの二つをお願いするよ」
「おはようございます、リルドさん。あ、しめじ茸ですね! ちょうど今朝、ギルドに隣接する宿屋の主人が『今夜のスープに入れたいから、鮮度のいいやつを頼む』って言ってたところなんですよ。よろしくお願いしますね」
「うん、任せて。ぷりぷりのを見つけてくるよ」
リルドが向かったのは、湿り気のある古木が並ぶ静かな森の奥。
薬草を摘む傍ら、彼はかつて培った「視野拡大」の感覚をふんわりと働かせ、落ち葉の陰に隠れたお目当ての品を探し当てる。
「あ、見つけた。仲良く並んでるね」
そこには、ツヤツヤとした茶色の傘を持つ、立派なしめじ茸が群生していた。リルドが優しく土を払いながら収穫すると、キノコの独特の芳醇な香りがふわりと立ち上がる。
「よしよし、これで依頼の分は十分だね。……おや、こっちは僕の夕飯用にもらおうかな」
自分用のキノコも少しだけ籠に足すと、リルドは木漏れ日が差し込む草の上に座り、しばらくの間、風の音を聞きながら贅沢な時間を過ごした。
すっかり満たされた気分で、リルドは街へと続く道を歩き出した。
周囲の森では、時折ガサガサと魔獣の気配が動くこともあったが、リルドが鼻歌を歌いながら放つ「ただの風景」のような気配に、魔獣たちは戦う理由を見つけられず、そっと道を開けていく。
「ふふ、今日は本当に天気がいいな……。風も暖かくて、歩いているだけで眠くなっちゃいそうだ」
時折、遠くの森の奥で他の冒険者たちが魔獣と戦う怒号が聞こえてきたが、リルドは「みんな元気だねぇ」と独り言を言いながら、のんびりと歩を進めた。
昨日のような緊迫した場面に出くわすこともなく、ただ穏やかな時間だけが流れていく。
夕暮れ時、リルドはギルドに戻り、収穫物を並べた。
「ただいま、受付さん。薬草としめじ茸、持ってきたよ。キノコはまだ湿り気が残っているくらい新鮮だよ」
「おかえりなさい、リルドさん! うわあ、本当に立派なしめじ茸! これなら宿屋の親父さんも大喜びですよ。ありがとうございます!」
「あはは、喜んでもらえるなら良かった。……あ、おまけで少し香りのいいハーブも入れておいたから、お茶にでも使ってよ」
リルドは報酬の銅貨を受け取ると、満足げに笑ってギルドを後にした。
「さて、僕も今夜は、あのしめじ茸をたっぷり使った炊き込みご飯でも作ろうかな」
万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも邪魔されることなく、穏やかな夕焼けの中に溶けていく。




