47話
朝の柔らかな日差しを浴びながら、リルドがギルドへ続く道をのんびりと歩いていると、街路樹の枝から一匹の栗鼠がトトトッと駆け下りてきた。
栗鼠はリルドの肩にひょいと飛び乗ると、小さな手でリルドの耳元をちょいちょいと触り、何かを教えるようにチチッと鳴いた。
「おはよう。今日はあっちの森の方が賑やかそうだって? 教えてくれてありがとう」
リルドはポケットから小さな木の実を一粒取り出して手渡すと、栗鼠を見送ってからギルドの扉を開いた。
「さて、今日はお散歩がてら、何をしようかな……」
掲示板を端から眺めていたリルドの指が、ふと一枚の風変わりな依頼書で止まった。
『街外れに住み着いた野犬たちの世話と健康状態の確認』。
「野犬の世話、か。討伐じゃなくて『世話』っていうのは、誰か優しい人が出した依頼なんだろうね」
リルドはその依頼書を剥がし、受付へと持っていった。
「おはよう、受付さん。今日はこのワンちゃんたちの様子を見てくるよ」
「おはようございます、リルドさん。……あ、その依頼、近所のおばあさんが『お腹を空かせているのが可哀想で』って出したものなんです。でも、野犬とはいえ結構気性が荒いみたいですから、噛まれないように気をつけてくださいね」
「うん、大丈夫。仲良くしてくるよ」
街の外れの空き地へ向かうと、そこには鋭い目つきをした数頭の野犬たちが、部外者を警戒するように唸り声を上げていた。
しかし、リルドが「お邪魔するよ」と自然体のまま一歩踏み出し、穏やかな気配を放つと、犬たちの警戒心は一瞬で霧散した。
「よしよし、みんなお腹が空いているんだね。……あ、少し毛並みが荒れている子がいるな」
リルドは持参した干し肉を分け与えながら、一頭一頭丁寧に撫でていく。彼の手が触れるたびに、犬たちの荒れていた毛並みはツヤを取り戻し、目の輝きさえも穏やかになっていった。
しばらくすると、野犬たちはリルドの足元でゴロゴロと喉を鳴らし、すっかり甘えモードになってしまった。
依頼を終え、犬たちに見送られながら帰り道を歩いていると、前方から数人の冒険者が血相を変えて走ってきた。
「おい、どけっ! 逃げろ!」
「くそっ、あんな強力な魔力が急に発生するなんて聞いてねえぞ!」
彼らは何かに追われているのか、ひどく焦った様子でリルドを追い抜いていった。
リルドが彼らの逃げてきた方向をぼんやり眺めると、遠くの森の奥で、暴走しかけた古い魔力溜まりが渦巻いているのが見えた。
「……あーあ。あんなところで魔力が暴れたら、森の動物たちが困っちゃうな」
リルドは足を止めると、足元から小さな小石を一つ拾い上げ、魔力の中心点に向けて「ピンッ」と軽く弾いた。
カツンッ!
小石が空気を切り裂き、魔力の渦の「核」を正確に貫いた。
瞬間、暴走しかけていた魔力はパッと霧散し、森は元の静けさを取り戻した。
「うん、これで大丈夫だね」
リルドは何食わぬ顔で歩き出し、街へと戻った。
夕刻、リルドはギルドに戻り、報告を済ませた。
「ただいま、受付さん。ワンちゃんたち、みんな元気だったよ。毛並みも整えておいたからね」
「おかえりなさい! ……えっ、あの凶暴だって言われてた野犬たちが大人しくなったんですか? さすがリルドさんですね。あ、そういえば! さっき戻ってきたパーティーが『森が爆発しそうだったのに、急に静まり返った!』って腰を抜かしてましたよ?」
「へぇ、不思議なこともあるもんだね。お天気が良かったから、森も落ち着いたのかな」
リルドはとぼけた顔で報酬の銅貨を受け取ると、夕食の献立を考えながら家路についた。




