45話
翌朝、リルドは窓辺で揺れるカーテンの隙間から差し込む光に目を細め、「今日は探し物日和だね」と呟いてギルドへ向かった。
掲示板の前で、リルドの目に一際たどたどしい文字で書かれた依頼書が飛び込んできた。
『特徴は、白い花が咲くの…でね…茎の付近に赤い部分があるの……葉っぱは少し薄い緑なの…』
「ふふ、面白い依頼だね。あまり高価な薬草じゃないけれど……きっと、これをどうしても必要としている誰かがいるんだろうね」
リルドはその依頼書をそっと剥がし、受付へと持っていった。
「おはよう、受付さん。今日はこの白い花の依頼を受けるよ」
「おはようございます、リルドさん。あ、その依頼……子供が書いたような内容で場所も書いてなかったんですが、わかるんですか?」
「うん、シーナ草原の奥の方に、ちょうど今の時期に咲く『赤根白妙草』だと思うよ。ちょっと見てくるね」
シーナ草原に到着すると、柔らかな風が草波を揺らしていた。リルドは目を閉じ、草花の囁きに耳を傾けるように歩を進める。
「おや、あんなところに。かくれんぼは終わりだよ」
岩陰の湿った場所に、依頼書通りの白い花を咲かせた草がひっそりと群生していた。リルドが優しく指を触れると、草は喜ぶようにその香りを放つ。必要以上に採りすぎないよう、最も元気な数本だけを丁寧に採取した。
採取を終えて帰り道を歩いていると、街道から少し外れた場所で、一人のCランク冒険者が地面に座り込んでいた。その目の前には、足に深い傷を負った大きなボア(野猪)が横たわっている。
「おや、どうしたんだい? 冒険者が獲物を介抱しているなんて、珍しい光景だね」
リルドが穏やかに声をかけると、冒険者は困り果てた顔で振り向いた。
「いや……こいつ、俺が仕留めようとした時に子供のボアを庇って怪我したんだ。それを見たら急に情が移っちまってな。でも、俺の持ってる傷薬じゃ足りなくて……」
「それは優しいね。……なら、これを使ってみるといいよ。さっき摘んだ薬草の余りだけど、傷口に塗ればすぐに良くなるはずだ」
リルドは手際よく薬草を揉み解し、ボアの傷口に添えた。すると、ボアは気持ちよさそうに鼻を鳴らし、みるみるうちに傷が塞がっていく。冒険者は目を丸くして驚いていたが、リルドは「じゃあ、お幸せにね」とだけ言い残して歩き出した。
夕暮れ時、リルドはギルドに戻り、白い花を受付に置いた。
「ただいま、受付さん。依頼の草、見つけてきたよ」
「おかえりなさい! ……まあ、本当に綺麗な白い花。依頼主の女の子、きっと喜びます。あ、そういえば! さっきCランクの人が『森で出会った隠者が魔法の草でボアを癒やして去っていった』って不思議な話を報告してましたよ」
「隠者? ……ははは、僕はただのお散歩好きだよ。じゃあ、また明日ね」
リルドは報酬の銅貨を数枚受け取ると、夕食の買い出しへと向かった。
僕の日常は、今日も誰かの小さな物語に寄り添いながら、穏やかに暮れていく。




