43話
柔らかな朝の光が窓から差し込み、リルドは心地よい眠りから目を覚ました。
身支度を整えて外へ出ると、どこからか一羽の野生のうさぎがトコトコと駆け寄ってくる。うさぎはリルドの足元で鼻を「くんくん」と鳴らし、親愛の情を込めるように「すりすり」と体を寄せてきた。
「おはよう。今日もいい天気になりそうだね」
リルドは優しくその頭を撫でてから、いつものようにギルドへと向かった。
ギルドの喧騒を通り抜け、リルドが掲示板で見つけたのは、なんとも平和な依頼だった。
『山芋畑のお手伝い募集』。
「おはよう、受付さん。今日はこの畑の手伝いに行ってくるよ。土に触れるのも悪くないからね」
「おはようございます、リルドさん。山芋掘りは腰を使いますから、無理しないでくださいね。いってらっしゃい!」
街の郊外にある農家へ着くと、日に焼けた農夫が笑顔で迎えてくれた。
「おお、来てくれたか! 今年の山芋は粘りが強くてな、掘り出すのが一苦労なんだ」
「任せてください。丁寧に掘らせてもらいますね」
リルドはかつて極めた技術を使い、土の層を読み取りながら、山芋を傷つけないよう魔法のようにスルスルと掘り出していく。その手際の良さに、農家の人も「あんた、冒険者より農家の方が向いてるんじゃないか?」と驚くばかりだった。
夕方、依頼が予定より早く終わると、農夫は大きな山芋を数本、リルドに差し出した。
「これ、お土産だ。一番いい出来のやつを持って行きな!」
山芋を籠に入れて帰り道を歩いていると、林の奥から「のっそり」と巨大な影が現れた。
それは、斧のような角を持つ巨大な鶏の魔獣、『アックストード』だった。
普通の冒険者なら武器を構える場面だが、リルドは足を止め、穏やかに微笑む。
「おや、君もお腹が空いているのかい?」
アックストードは敵意を見せず、リルドの籠の中にある山芋に興味津々な様子で鼻を鳴らしている。リルドは「少しだけだよ」と言って、お土産の山芋を一本、ポイと投げてあげた。
アックストードは器用にそれをパクりと食べると、その美味しさに「クワッ!」と喜びの声を上げ、リルドの足元に巨大な体を「すりすり」と擦り寄せてきた。
「あはは、くすぐったいよ。また今度ね」
巨大な魔獣に見送られながら、リルドは夕暮れの道を歩き続けた。
ギルドに戻り、リルドは報告を済ませた。
「ただいま、受付さん。畑の手伝い、無事に終わったよ。ほら、お土産ももらったんだ」
「おかえりなさい! ……うわあ、立派な山芋ですね! あ、そういえばリルドさん。さっき帰ってきた冒険者が『森で凶暴なアックストードが、誰かを待っているみたいに大人しく座ってた』って不思議そうに言ってましたけど、見ませんでした?」
「アックストード? ……うーん、どうだろう。僕は美味しい山芋のことばかり考えてたからね」
リルドはとぼけた顔で報酬を受け取ると、家路についた。
「僕も、今夜はとろろご飯にして食べようかな」
万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも知られることのない平和な交流を添えて、穏やかに更けていく。




