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ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


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4話

数日後、リルドの住む小さな家には、いつも通りの穏やかな朝が訪れていた。

昨晩、銀狼の毛で作った小さなクッションを試してみたが、驚くほど暖かく、リルドは珍しく二度寝を楽しんでしまった。

「ふあぁ……。今日はいい天気だ。少し足を伸ばして、南の湿原にある『七色苔』でも見に行こうかな」

リルドは庭の石たちに「行ってくるよ」と声をかけ、のんびりと歩き出した。

湿原へ向かう道中、彼は道端に咲く名もなき花を見つけては足を止め、空を流れる雲の形を眺めては一休みする。彼にとって、目的地に早く着くことは重要ではない。その過程にある景色すべてが、彼の大切な日常だった。

湿原に到着すると、そこには先客がいた。

王都でも指折りの実力を持つSランク冒険者の一人、重戦士のガルドである。彼はリルドの正体を知る数少ない親友だ。

「よお、リルド。相変わらず、そんななまくら一本でこんな場所まで来たのか」

ガルドは巨大な斧を地面に突き立て、豪快に笑った。彼はある高難度クエストの帰りで、偶然この湿原で休憩していたらしい。

「あはは、ガルドさん。僕はただの苔観察ですよ。ガルドさんこそ、そんな大きな荷物を背負って大変ですね」

「これが仕事だからな。だが、お前を見てると、どっちが本当の『冒険』をしてるのか分からなくなるぜ」

二人がそんな冗談を交わしていると、湿原の泥の中から巨大な触手のようなものが這い出してきた。

それは、この地の主とも呼ばれる巨大魔獣「ヒュドラ」の幼体だった。幼体とはいえ、Cランク以上の実力がなければひとたまりもない。

「ちっ、休ませちゃくれねえか。リルド、下がってろ。俺が――」

ガルドが斧を構えようとした瞬間、リルドが「あ、危ないよ」と言いながら、ひょいとヒュドラの前に出た。

ヒュドラが鋭い触手をリルドに向かって叩きつける。

だが、リルドはそれを紙一重でかわすと、まるでお辞儀でもするように体を沈め、足元の泥を掬ってヒュドラの顔(とおぼしき部分)にペチャリと投げつけた。

「めっ、だよ。ここは皆がお昼寝する場所なんだから」

ただの泥投げ。しかし、リルドが放った泥は、正確に魔獣の感覚器官を封じ、さらにその衝撃で魔獣の脳を激しく揺さぶった。

ヒュドラは、自分が何に攻撃されたのかも理解できないまま、その場にぐにゃりと崩れ落ち、深い眠りについた。

「……おいおい。相変わらずデタラメだな、お前の『お仕置き』は」

ガルドは呆れたように肩をすくめた。

「だって、せっかくの七色苔が踏まれちゃうのは嫌だもん」

リルドは気に留める様子もなく、湿った岩の陰に生える、虹色に輝く小さな苔を見つけ、目を輝かせた。

帰り道、リルドは少しだけ七色苔を分けてもらい、瓶に詰めて持ち帰った。

ギルドに寄ると、相変わらず騒がしい冒険者たちが「Sランクのガルド様が湿原の主を倒したらしいぞ!」と噂していた。

ガルドがギルドマスターに「俺がやったことにしておいてくれ」と目配せしているのを、リルドは遠くから微笑ましく眺める。

もし自分が倒したことになれば、明日からの「のんびり石拾い」ができなくなってしまう。そんなのは御免だ。

「リルドさん、今日は何をしてたの?」

受付嬢が、少し泥のついたリルドの服を見て笑う。

「ちょっと泥遊びをね。でも、いいものが見られたよ」

リルドは報酬の銅貨を受け取ると、夕食の買い出しのために市場へと向かった。

今夜は、七色苔の淡い光を眺めながら、ゆっくりとハーブティーを飲むつもりだ。

世界を救う英雄の称号よりも、窓辺で光る苔の美しさを選ぶ。

それが、万年Fランク冒険者リルドの、譲れない至福のひとときだった。

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