第346話
ギルドの噴水掃除をささっと終えたリルドは、濡れた袖をまくりながら受付へと戻ってきました。
「終わったよ、受付さん。詰まってたのはただの古い石ころだったみたい」
(※実際は古代帝国の魔力集積回路でしたが、リルドが指先で弾いた瞬間にただの砂利になりました)
「お疲れ様、リルドさん! いつも助かるわ」
リルドが報酬の銅貨を受け取ってギルドのベンチに座ると、隣で大人しく待っていたクロが、くんくんとリルドの腰元を嗅ぎ始めました。そこには昨夜、勝手に窓辺まで散歩した魔剣ラッファードが鎮座しています。
『……クロよ、あまり嗅ぐな。我は昨夜、最高級の月光を浴びて、刀身のキレが一段階上がっておるのだ。うかつに触れると鼻先が切れるぞ』
「あはは、ラッファード、また強がって。クロ、仲良くしてあげてね」
リルドが二人(一振りと一匹)をなだめていると、ギルドの重厚な扉が勢いよく開き、一人の男が入ってきました。
「よう、リルド! 今日も平和そうだな!」
声をかけてきたのは、このギルドでも数少ない実力者であり、リルドの正体を薄々(というか、なんとなく凄まじいことだけ)察している数少ない友人、スレイドでした。彼は大剣を背負い、戦い帰りの土埃を払いながらリルドの前の席にどっかと座りました。
「あ、スレイド。おかえり。今日の遠征はどうだった?」
「ああ、北の洞窟でワイバーンの群れに囲まれてな。死ぬかと思ったぜ。……だが、不思議なこともあるもんだ。絶体絶命って時に、どこからか温かい風が吹いてきて、魔物たちが急に戦意を失って逃げていったんだよ。おかげでこの通り、かすり傷一つねえ」
スレイドは不思議そうに首を振りますが、その「温かい風」の正体が、今朝リルドが庭で盛大にあくびをした時に漏れ出た「安寧の波動」だとは夢にも思っていません。
「へぇ、運が良かったんだね。怪我がなくて何よりだよ」
「……全くだ。お前の顔を見ると、その『幸運』がさらに確かなものに思えてくるから不思議だよ。……おっと、そうだ。これ、途中の村で見つけた珍しい『氷晶石』だ。お前の石集めのコレクションに加えてくれ」
スレイドが差し出したのは、触れるとひんやりと心地よい、透き通った青い石。
「わあ、綺麗……! ありがとう、スレイド。これ、夜中に光りそうだね」
リルドが石を掲げて喜ぶ横で、ラッファードが小声で呟きます。
『……ふん、スレイドか。相変わらずお主に貢ぎ物を持ってくるとは。……だがリルドよ、その石は熱を吸収する性質がある。今夜の寝苦しさを解消するには丁度良かろう』
最強の剣士スレイドと、最強の魔剣、そして正体不明の相棒クロ。
そんな規格外の面々に囲まれながら、リルドは貰ったばかりの石を太陽にかざして目を細めました。
「スレイド、この後空いてる? ギルドの食堂で一緒にエールでも飲もうよ。僕、クッキー持ってるんだ」
「おう、喜んで! リルドの持ってる食い物は、なぜか特別に美味いからな!」
最強の力を持ちながら、ただの友人として笑い合う。
万年Fランクの日常は、頼もしい仲間たちとの賑やかな笑い声に包まれて、今日も穏やかに過ぎていくのでした。




