表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/62

34話

翌朝、リルドはいつものようにギルドの喧騒の中へ入り、掲示板の前で足を止めた。

指先で依頼札を追っていると、背後から地響きのような足音と共に、豪快な声が降ってきた。

「よう、リルド! 相変わらず、そんな端っこの依頼ばかり眺めてるのか」

振り返ると、そこには巨大な斧を背負ったSランク冒険者のガルドが立っていた。周囲の冒険者たちが「ガルド様だ……!」と息を呑む中、リルドだけはのんびりと手を挙げる。

「ああ、ガルドさん。おはよう。今日は一段と強そうな装備だね」

「これか? 仕事でな。……それより、今日はお前にぴったりの依頼があるぞ」

ガルドが指差したのは、掲示板の隅で埃を被りかけていた一通の依頼書だった。

リルドはそれをスッと剥がし、受付へと向かう。

「受付さん、今日はこれにするよ。【ウルフの毛を納める】。ちょうど、冬毛に生え変わる時期だからね」

「おはようございます、リルドさん。……あ、ウルフの討伐じゃなくて『毛』の納品ですね。毛布の材料にするそうです。いってらっしゃい」

リルドは草原へと続く道を、鼻歌まじりに歩き出した。

周囲の森や草むらからは、魔獣たちの視線を感じるが、彼が放つ凪のような穏やかな気配に、魔獣たちは戦う意欲を失い、そっと道を開けていく。

目的の草原に着くと、数頭のウルフが日向ぼっこをしていた。

リルドが近づいても、彼らは逃げるどころか、まるでお気に入りの客人を迎えるように尻尾を振って駆け寄ってくる。

「おはよ。少しだけ、ブラッシングさせてくれるかな?」

リルドが丁寧に櫛を通すと、ウルフたちは気持ちよさそうに喉を鳴らす。

抜けかけていた柔らかな冬毛が、あっという間に籠いっぱいに溜まった。

「よし、これで依頼完了。協力してくれてありがとうね」

帰り道、リルドがのんびりと街道を歩いていると、前方から激しい怒号と衝撃音が聞こえてきた。

「くそっ! なんだってこんな所にレッドブルリアが!」

「盾が持たねぇ! 逃げろ、死ぬぞ!」

そこでは、数人のDランク冒険者が、燃え盛るような紅い毛並みを持つ巨牛「レッドブルリア」と対峙していた。突進一撃で家をも砕くという暴れ牛を前に、冒険者たちは絶望的な状況だった。

「あーあ。そんなところで暴れたら、せっかくの道がボコボコになっちゃうな」

リルドは困ったように眉を下げると、足元から小さな小石を一つ拾い上げた。

そして、レッドブルリアが次の突進を仕掛けようと前脚を掻いた瞬間、指先でその小石を「ピンッ」と弾いた。

シュンッ――。

小石は目にも止まらぬ速さで飛び、レッドブルリアの眉間にある急所を正確に叩いた。

ただそれだけだったが、巨牛は一瞬で白目を剥き、その場でぐるぐると目を回しながら「どしん!」と大きな音を立てて倒れ込んだ。

「あ、今のうちに帰ろう」

呆然と立ち尽くす冒険者たちを置き去りにして、リルドは気配を消してその横を通り過ぎた。

夕方、リルドはギルドに戻り、窓口に籠を置いた。

「ただいま、受付さん。ウルフの毛、持ってきたよ。とってもふわふわで暖かそうだ」

「おかえりなさい! ……ええっ、これ全部ウルフの毛!? しかも、こんなに綺麗に揃ってるなんて……。あ、そういえばリルドさん、途中でレッドブルリアを見ませんでした? さっきDランクの方たちが『石が飛んできて牛が勝手に倒れた!』って騒いでたんですけど」

「レッドブルリア? ……うーん、どうだろう。僕は雲を眺めて歩いてたから、気づかなかったなぁ」

リルドはとぼけた様子で報酬の銅貨を受け取ると、満足げに微笑んだ。

「はい、これが報酬です。……リルドさん、いつかまた大きな仕事も受けてくださいね」

「あはは、僕はこれで十分だよ。じゃあ、また明日」

万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも知られることのない神業を添えて、穏やかに暮れていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ