表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

335/346

第335話

翌朝、学術都市の宿の一室で、リルドは昨晩仕込んだ「古代の重石」による浅漬けの樽をそっと開けた。

「くんくん……。うん、いい香りだ。やっぱりこの石、重さが絶妙だったみたいだね」

リルドが一切れ口に運ぶと、ポリポリという小気味よい音と共に、全身の細胞が歓喜に震えるような瑞々しさが広がった。

『……リルドよ。その浅漬け……周囲に「生命の法」のオーラが漏れ出しておるぞ。一口食べれば不治の病も治り、魔力が底なしに溢れ出す「エリクサーの和え物」になっておるではないか』

「あはは、大げさだよラッファード。ただの美味しい大根だよ」

リルドは上機嫌で朝食を済ませると、残りの浅漬けを丁寧に小皿に分け、お世話になった宿の主人と、昨日お世話になったギルドの受付嬢への差し入れとして持っていくことにした。

学術都市のギルドへ向かうと、そこは昨日以上の大パニックに包まれていた。

「昨夜、神代の石板から溢れ出した魔力で、都市中の魔導具の出力が150%に跳ね上がったぞ!」「解呪したあのFランクの男はどこだ! 賢者様方が血眼で探しておられる!」

そんな怒号が飛び交う中、リルドはひょいと受付のカウンターに小皿を置いた。

「おはよう、受付さん。これ、昨日の大根を漬けてみたんだ。よかったら休憩中に食べて」

「あ、リルドさん! おはようございます……って、えっ? 何ですかこの神々しい輝きを放つ物体は……」

受付嬢がおそるおそる箸を伸ばし、その一切れを口にした瞬間。

彼女の背後に眩い光の輪(のような幻覚)が浮かび、長年のデスクワークでガチガチだった肩こりと、慢性的な魔力不足が、一瞬にして消し飛んだ。

「……っ!? ……美味しい。美味しいし、なんだか私……今ならドラゴンを素手で倒せる気がします!」

「あはは、元気が一番だね。じゃあ、僕はこれから街の『図書館の整理』の依頼に行ってくるよ。本に囲まれるの、好きなんだ」

リルドが去った後、ギルドには「聖なる浅漬け」の香りが漂い、その匂いだけで居合わせた冒険者たちの古傷が次々と完治していくという奇跡が起きていた。

一方、リルドは都市最大の図書館の奥深くで、埃を被った古い魔導書の背表紙を優しく撫でていた。

「よいしょ、よいしょ。……おや、この本、中身が真っ白だ。落書き帳かな?」

リルドがパラパラと捲ったその白紙の本は、実は『世界の真理を書き記す魔導書』。選ばれし者以外には何も見えないはずのものだったが、リルドが「退屈そうだね」と指先でトントンと叩くと、本は嬉しそうにパァァと光り、可愛らしい花のイラストが次々と浮かび上がってきた。

「わあ、押し花の参考になりそう。これ、借りていってもいいのかな?」

最強の力を「料理の重石」と「花の観察」に費やし、本人は学術都市の根幹を揺るがしている自覚など微塵もない。

万年Fランクの日常は、賢者たちが膝をつくような奇跡を「日常の彩り」として消費しながら、今日も穏やかに、そしてちょっぴり美味しく過ぎていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ