第331話
家に戻ったリルドは、まず真っ先に窓辺へと向かった。
そこには「七色の種」から出た小さな芽が、夜の静寂の中で誇らしげに葉を広げている。
「ただいま。今日もいい天気だったよ」
リルドは机に座ると、薬草園で見つけた古い銀の指輪を取り出した。
表面には長年の土にまみれた汚れがこびりついていたが、彼はそれを柔らかな布で丁寧に拭い始めた。
『……リルドよ。その指輪、ただの鉄屑ではないな。かつての古王国の魔導師が、精神を安定させるために用いた聖銀の類だ。お主が磨くたびに、死んでいた回路が再起動しておるぞ』
「へぇ、そうなんだ。でも、僕にとってはただの『今日見つけた思い出』だよ」
リルドが指先でキュッキュと磨き上げると、指輪は月明かりを吸い込み、青白く澄んだ輝きを取り戻した。宝石が抜けた穴には、偶然にも昨日拾った「黒い小石」がぴったりとはまった。
「ほら、見て。なんだか元からこうだったみたいに綺麗になった」
リルドはその指輪を、窓辺の「七色苔」のボトルのすぐ隣にそっと置いた。
苔の淡い光が指輪の銀色に反射し、窓辺はまるでおとぎ話のワンシーンのような幻想的な光に包まれる。
「うん、最高だ。ね、クロ」
リルドは幸せそうなため息をつくと、そのままベッドに潜り込んだ。
最強の力で世界を救うことも、魔王を顎で使うこともない。
ただ、一日の終わりに「今日見つけた綺麗なもの」を眺めて眠りにつく。
彼にとって、これ以上の贅沢は存在しなかった。
万年Fランクの夜は、窓辺で光る小さな奇跡たちに見守られながら、今日も穏やかに、どこまでも深く更けていく。




