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ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


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327/346

第327話

眩い光に包まれた朝の静寂。

リルドが目を覚ますと、そこにはいつも通りの、少し傾いた天井と、使い古された簡素な家具があった。

「……ん、あれ?」

慌てて隣を確認するが、昨日まで床で胡坐をかいていた魔王の姿はない。

庭を窓から覗いてみても、天を突くような世界樹や聖女の白い天幕はなく、そこにあるのは昨日植えたばかりの「七色の種」から出た、指先ほどの小さな、愛らしい芽だけだった。

「なんだ……夢だったのか」

頬を撫でる風は心地よく、部屋には魔王の禍々しい気配も、聖女の神々しい香りも残っていない。

腰に立てかけたラッファードが、眠たげな声を上げた。

『……リルドよ、どうした? お主、寝言で「魔王様、分別して」などと奇妙な指示を出しておったぞ。よほど変な夢でも見たのか?』

「あはは……。うん、なんだか世界中のすごい人たちが、うちに居候しに来る夢だよ」

『ふん、馬鹿馬鹿しい。お主のような万年Fランクの家に、そんな大層な連中が来るはずなかろう。夢は夢だ、早く支度をせよ』

リルドは可笑しくなって、肩に乗ってきたクロを撫でた。

「そうだね。さて、今日こそ本当に『裏通りのドブさらい』の依頼を受けに行こうかな。……現実は、これくらいがちょうどいいや」

リルドはいつものように身支度を整え、お気に入りの籠を背負って家を出た。

ギルドまでの道すがら、街の人々に挨拶を交わす。昨日のパニックも、黄金の飛行船もどこにもない、穏やかで退屈な、最高の一日が始まっていた。

ギルドの扉を開けると、中はいつも通りの活気に満ちていた。

「お、リルド! 今日も朝から精が出るな!」

「おはよう、ゴルドさん」

掲示板の前に行くと、昨日夢の中で剥がしたはずの『ドブさらい』の依頼が、確かにそこにあった。

「……よかった。人違いも、魔王のいびきも、ここにはないんだ」

リルドは心底ホッとした様子で依頼札を剥がし、受付へと向かった。

窓口では、いつもの受付嬢が忙しそうに書類を整理している。

「あ、リルドさん。おはよう。今日はそのドブさらいね? 昨日の魔力異常の調査じゃなくていいの?」

「うん、あはは。僕にはこっちの方がお似合いだよ」

受付嬢と軽い冗談を交わし、リルドはギルドを後にした。

青空の下、彼は鼻歌を歌いながら現場へと向かう。

『……リルド、なぜそんなに嬉しそうなのだ。たかがドブさらいだろう?』

「ううん。ただ、いつもの平和が一番贅沢なんだなって、改めて思っただけだよ」

最強の力を持ちながら、彼は今日もFランクとして、世界で一番贅沢な足踏みを楽しんでいる。

夢の中で魔王を顎で使った記憶を、密かな宝物のように胸に仕舞い込んで。

万年Fランクの日常は、何も起きない奇跡を噛み締めながら、今日も穏やかに、どこまでも優しく更けていく。

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