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ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


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324/346

第324話

翌朝、リルドは窓の外を見て、思わず二度見した。

庭の「七色の種」から、一晩で天を突くような黄金色の芽が吹き出し、周囲にキラキラと神々しい粉を振りまいていたからだ。

「……成長、早すぎないかな」

『……リルドよ。あれは「芽」ではない。世界樹の幼生だ。お主のじょうろには聖水でも入っておるのか?』

ラッファードの呆れ声を無視して、リルドはいつも通り身支度を整えると、クロを肩に乗せてギルドへと向かった。

ギルドの前に着くと、重厚な扉の向こうから、地響きのような怒鳴り声が漏れ聞こえてきた。

「リルドはどこだ! リルドを出せ! 貴様ら、隠しているのではないだろうな!」

「???」

リルドが不思議そうに首を傾げると、腰のラッファードが鞘の中でガタガタと震え出した。

『な……なんだこの禍々しくも懐かしい気配は……。リルド、よせ。中に入るな! あれは……あれは魔王様ではないか!?』

「まさかぁ」

リルドがのんきに扉を開けると、そこには静寂と絶望が支配するギルドの光景があった。

中央のテーブルにふんぞり返っているのは、漆黒の甲冑を纏い、角を生やした圧倒的な存在感を放つ男。

「(げっ!?)」

リルドは反射的に扉を閉めようとしたが、受付嬢が涙目で叫んだ。

「あ、リルドさーん! やっと来た! 魔王様がずっとあなたを呼んでますよ!」

ギルドマスターも、額から滝のような汗を流しながら遠巻きに言った。

「リルド……。どういうわけか、魔王様がお前に直接用があるんだとさ。頼む、機嫌を損ねないでくれ……」

「お!! おお! リルド! やっと現れたな!」

魔王が椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がり、大股で歩み寄ってくる。

「……ひ、人違いじゃないかな。僕はただのFランクの――」

「んなわけあるか! 俺様がお前を間違えるわけあるか!? あの時、俺様の自慢の魔王城を『日当たりが悪いから』という理由だけで一撃で更地にしたのはどこの誰だ!」

ギルド中の冒険者が「え……?」と固まる中、リルドはそそくさと掲示板の前まで移動した。

「……何をしている?」魔王が背後から覗き込む。

「今日の依頼を選んでるんだよ。ほら、今日はこれ。『裏山のハーブ摘み』」

『お主、魔王を背にハーブを選ぶとは……度胸というよりは無神経の極みだな』

「……討伐依頼は? ドラゴンや高位悪魔の首はどうした?」

魔王が不思議そうに尋ねると、リルドはハーブの依頼札を剥がしながら答えた。

「最近は直接は受けてないよ。命のやり取りより、お花の香りを楽しみたいし」

「……ふん、相変わらずだな。よし、行くぞ」

「えっ、どこへ?」

「決まっている。ハーブ摘みだ!」

移動するリルドの後ろを、マントを翻した魔王が堂々と付いてくる。街道ですれ違う冒険者や村人が、恐怖のあまり次々と道端の溝に飛び込んで避難していったが、リルドは「今日はみんな活発だなぁ」と呑気に笑っていた。

森に着くと、魔王は漆黒の魔力で雑草を消し飛ばそうとしたが、リルドに「根っこが痛むでしょ!」と怒られ、結局二人で並んでしゃがみ込み、ハーブを摘む羽目になった。

夕暮れ時、リルドは籠いっぱいのハーブを持ってギルドに戻った。

「ただいま、受付さん。ハーブ、たくさん採れたよ。あと、この人は……道案内?」

「お、お疲れ様です……」

受付嬢が震える手で報酬を渡す横で、魔王が腕を組んで宣言した。

「よし、決めたぞリルド。貴様のその、毒にも薬にもならん生活……俺様が見守ってやる。今日から貴様の家で一緒に暮らす!」

「ええっ!? 部屋、狭いよ!?」

『……終わった。我の安眠が、魔王のいびきで妨げられる日々が始まる……』

最強のFランクの家に、まさかの居候(魔王)が加わった。

万年Fランクの日常は、世界の支配者を「家事手伝い」に変えながら、今日も賑やかに更けていく。

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