第314話
翌朝、リルドはいつものようにギルドの扉をくぐり、朝の活気の中に身を置いた。
掲示板を眺めながら、今日の「お散歩コース」を考えていると、背後から大きな影が近づいてきた。
「よう、リルド! 今日も朝から精が出るな!」
ガッ、と力強い手で肩を叩かれた瞬間、リルドの肩が跳ね上がった。
「ひゃっ!? ……あ、なんだ、ゴルドさんか。びっくりさせないでよ……」
「ははは! 相変わらずいい反応するじゃねぇか。お前さん、線が細いからつい構いたくなるんだよな」
リルドは心臓の鼓動を落ち着かせながら、苦笑いして掲示板から『薬草採取』の依頼札を剥がした。
森へ入ると、リルドはいつもの静寂に包まれた。
指先から微かな魔力を流し、地中の水分量を感じ取りながら、最高級の薬草を選り分けていく。
「よし、今日はこれで十分かな。……クロ、帰りにあそこの川の石も見ていこうか」
「キー!」
籠いっぱいの薬草を背負い、鼻歌まじりに街への帰り道を歩いていると、先ほどのゴルドたち冒険者パーティーと鉢合わせした。彼らは大型の魔獣を仕留めた帰りらしく、上機嫌だった。
「お、リルド。仕事は終わったか?」
「ええ、ちょうど今帰りです。皆さんもお疲れ様です」
リルドが丁寧にお辞儀をすると、ゴルドは「よく頑張ったな」と言わんばかりに、大きな掌をリルドの頭に乗せた。そのまま、わしゃわしゃと乱暴に髪をかき混ぜる。
「……っ、ちょっ、やめてくださいってば!」
「がっはっは! 柔らかい髪してんなぁ。まるで迷い込んだ仔兎だぜ」
リルドはぐちゃぐちゃになった前髪を押さえながら、少しだけ頬を膨らませて早歩きでギルドへ向かった。
ギルドのカウンターに薬草を差し出すリルドの顔は、いつもより少しだけ不機嫌そうだった。
「ただいま、受付さん。……今日の薬草です。あ、髪は……気にしないで」
「おかえりなさい、リルドさん。……ふふ、またゴルドさんたちに構われちゃったんですか?」
そこへ、追いかけてきたゴルドが再び現れた。
「おいおい、そんな怒るなよリルド。ほら、お疲れさん!」
不機嫌そうに背中を向けているリルドの頭を、ゴルドはさらに追い討ちをかけるように撫で回す。
「もうっ……! だから、子供じゃないんだから……やめてください!」
リルドはさらに顔を真っ赤にして、受け取った報酬を握りしめると、ぷいっと横を向いてしまった。
『……ふん。お主のその「隙」の多さが、粗野な連中の庇護欲を無駄に刺激しておるのだ。少しは我のような鋭さを身につけよ』
腰のラッファードが呆れたように念じるが、リルドは「もう、知らない!」と心の中で叫び、逃げるようにギルドの奥へと消えていった。
最強の力を秘めながら、ギルドの荒くれ者たちには完全に「いじられキャラ」として定着してしまっている。
万年Fランクのリルドの毎日は、誰かの親愛(?)という名の受難に遭いながら、今日も騒がしく、そして温かく更けていく。




