第313話
翌朝、リルドは昨夜の騒ぎが嘘のように、すっきりとした顔で目を覚ました。
腕の中でぬくぬくと温まっていたラッファードをそっと枕元に戻し、寝ぼけ眼のクロを誘ってギルドへと向かう。
ギルドの食堂で、温かい豆のスープとパンを食べていると、通りがかった顔見知りの冒険者が声をかけてきた。
「おはよう、リルド。今日も早いな」
「おはようございます。今日は天気がいいから、絶好の採取日和ですよ」
リルドが穏やかに微笑むと、肩の上のクロも「キー!」と元気よく挨拶をする。
「おう! おまえさんも毎日おつかれさんだな。相変わらず賢い子だ」
冒険者が大きな手でクロの小さな頭を優しく撫でると、クロは嬉しそうに目を細めて、にこにこと喉を鳴らした。そんな微笑ましい光景を、周囲の荒くれ者たちもどこか柔らかい目で見守っている。
掲示板に向かったリルドは、慣れた手つきで二枚の依頼札を剥がした。
『薬草採取』、そして『回復ポーション作成』。
「今日はこれに行ってくるね、受付さん」
「はい、リルドさん。あなたの作るポーションは純度が高くて、騎士団の人たちにも人気なんですよ。よろしくお願いしますね」
リルドは街を出て、いつもの静かな森へと足を踏み入れた。
木漏れ日の下、瑞々しい薬草を丁寧に摘み取っていく。根を傷つけないよう、指先から微かな魔力を流して土を解し、最高級の葉だけを籠に収める。
必要分を確保すると、リルドは森の切り株に座り、携帯用の錬金器具を取り出した。
「よし、始めようか」
摘みたての薬草を、魔力で一定の温度に保った水に浸し、成分を抽出していく。本来なら高度な設備が必要な作業だが、リルドが指先で攪拌すると、液体は濁り一つない鮮やかなエメラルドグリーンへと変わっていった。
『……ふむ。お主のその「精密操作」、相変わらず薬作りに使うには勿体ないレベルだな。これ一本で、並の致命傷なら一瞬で塞がるぞ』
「(あはは、ただの初級ポーションだよ、ラッファード)」
夕暮れ時、リルドは数本の小瓶と、余った薬草を抱えてギルドに戻った。
「ただいま、受付さん。ポーション、できたよ」
「おかえりなさい! ……わあ、今回も透き通っていて綺麗ですね。これなら、怪我をした新人さんたちも安心して使えます。いつもありがとうございます」
報酬の銅貨をチャリンと受け取り、リルドは満足そうに微笑んだ。
最強の力で無双する代わりに、傷ついた誰かを癒やす一滴を作り、静かに一日を終える。
万年Fランクのリルドの毎日は、誰にも気づかれない「優しさ」を瓶に詰めながら、今日も穏やかに更けていく。




