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ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


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301/346

第301話

夕食後、リルドは新しく縫ったカーテンを窓辺に吊るした。

夜風に揺れる柔らかな布地が、月光を透かして部屋を淡い藍色に染めている。

「うん、いい感じ。クロ、どうかな?」

「キー!」

『ふむ、実に優雅な夜だな。お主の家は、もはやギルドの騒がしさとは別世界の聖域のようだぞ。……さて、明日は何を拾い、何を磨くのだ?』

ラッファードが期待を込めて鞘を鳴らす。

リルドはふふっと笑い、窓から見える静かな街並みを眺めながら目を閉じた。

翌朝、リルドはいつも通りの時間に目を覚まし、クロに朝の挨拶をしてから家を出た。

ギルドに入ると、掲示板の前で昨日のテントの若者が、何やら年配の冒険者に熱心に語りかけていた。

「違うんです! リルドさんに教わった通りに道具を拭くと、なんだか武器が喜んでいる気がするんですよ!」

「ははは、お前も『リルド教』に入信したか。あいつの丁寧さは、俺たち荒くれ者には真似できんからな」

リルドはそんな微笑ましい会話の横をすり抜け、掲示板の隅に貼られた「今日の一枚」を選び取った。

『裏山の「風通し」の改善、および倒木の撤去』

「おはよう、受付さん。今日は山のお掃除に行ってくるね」

「おはようございます、リルドさん。裏山ですね。最近、風の巡りが悪くて淀んだ空気が溜まっているって、薬師さんが困っていたんです。よろしくお願いしますね」

裏山へ向かう道中、リルドは「視野拡大」で山の呼吸を観察した。

確かに、大きな古い木が倒れ、そこから伸びたつたが空気の通り道を塞いでしまっている。

「これじゃあ、山の神様も息苦しいよね」

リルドは籠を下ろすと、倒木にそっと手を触れた。

本来なら数人がかりで動かす巨木だが、リルドが重心の「ツボ」を指先で軽く押すと、木はまるで意志を持っているかのように軽々と持ち上がった。

『お主、それを「重石」にでもするつもりか?』

「ううん、あっちの崖の下に。そこなら小さな生き物たちの良いお家になるから」

倒木を移動させ、空気の流れを阻んでいた蔦を優しく解いていく。リルドが最後の一本を外した瞬間、山の上から「ひゅうっ」と心地よい涼風が吹き抜けた。

その風は淀んだ空気を一気に運び去り、山の奥で眠っていた薬草たちが一斉に葉を広げて輝き出す。

「(……あ、いい風)」

リルドが目を細めていると、近くの茂みから、風の精霊に導かれたのか、怪我をした『一角鹿ユニコーン・ディア』がふらふらと現れた。

「おや、足にとげが刺さっちゃったんだね。痛かったでしょう」

リルドは優しく鹿の首筋を撫で、「言語理解」でその痛みを汲み取ると、そっと棘を抜き取った。指先から漏れたほんの少しの癒やしの光が、傷を一瞬で塞いでしまう。

鹿は感謝を伝えるようにリルドの頬を舐め、軽やかな足取りで森の奥へと駆けていった。

夕暮れ時、リルドは山の爽やかな空気を纏ってギルドに戻った。

「ただいま、受付さん。山に良い風が吹くようになったよ」

「おかえりなさい、リルドさん! ええ、街まで清々しい風が届いていますよ。薬師さんも『今日採れた薬草は最高だ!』って大喜びでした。はい、こちら報酬の銅貨よ」

「あはは、それはよかった。……さあ、帰ろう、ラッファード。クロ」

報酬の銅貨をチャリンと鳴らし、リルドは茜色の道を歩き出す。

最強の力で嵐を呼ぶ代わりに、山の呼吸を整え、一匹の鹿の傷を癒やす。

万年Fランクの日常は、世界の片隅で静かに「調和」を奏でながら、今日も穏やかに、そして優しく更けていく。


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