第297話
翌朝、リルドが家を出る準備をしていても、腰のラッファードは昨夜の余韻で完全にいじけていた。
『……くすん……。我はただ、お主との親睦を深めようと……暗闇はもう嫌だ……』
「……(無言で靴を履く)」
『……キー……(よしよし)』
クロが翼の先で鞘をぺしぺしと叩いて慰めているが、ラッファードの落ち込みようは相当なものだった。
ギルドに到着すると、そこでは新人冒険者たちが互いの武器を自慢し合っていた。
「見よ、この剣の輝き! 鮮やかだろ?」
「おお! 業物じゃないか。それならゴブリンの群れも一網打尽だな!」
そんな若者たちの活気を横目に、リルドは掲示板の隅にひっそりと貼られた、意味深すぎる依頼書に目を留めた。
『ラファエルの末裔の暗い場所は、いつしか訪れる人に溢れている』
「(???)……何だろう、これ。詩かな?」
リルドが不思議に思って受付に持っていくと、受付嬢も困ったように眉を下げた。
「それね……誰の依頼かも分からないし、内容も支離滅裂。もしかしたら子供のイタズラか、酔っ払いの落書きかもしれないわよ?」
「うーん……でも、気になっちゃって。やれるだけはやってみるよ」
リルドはまず、街の中にある「ラファエル」に関連する場所を探してみたが、古びた石像があるだけで、特に変わった様子はない。
「街の外も探してみよう」
次に街の城門を出て、街道沿いや古い祠を見て回ったが、手掛かりは見つからなかった。
「……あ、あそこの郊外の丘、何か光ってない?」
夕陽が沈み始めた郊外の丘。そこには、かつて「歌石」があった場所の近くに、忘れ去られた小さな「洞窟の入り口」があった。
『……リルドよ、その場所。微かに「悔恨」の魔力が漂っておるぞ』
中を覗くと、そこには誰かが供えたらしい枯れた花と、壁一面に刻まれた「歴代の冒険者たちの名前」があった。どうやらここは、かつての名もなき冒険者たちが、安らぎを求めて集まった隠れ家のような場所だったらしい。
「訪れる人に溢れている……っていうのは、この壁に刻まれた名前のことだったのかな」
リルドは持ってきた水で壁の汚れを拭い、少しだけ光魔法を込めた石を入り口に置いた。これで、迷った誰かがいつでもここを見つけられる。
夜、ギルドに戻ったリルドは、受付さんに報告をした。
「ただいま。……結局、古い隠れ家を掃除してきただけになっちゃったけど、あれはきっと『忘れられた場所を思い出してほしい』っていう誰かの願いだったのかも」
「お疲れ様、リルドさん。……不思議ね、さっきその場所の所有者だという老紳士から、匿名の報酬が届いたわよ。あなたが動くのを待っていたみたいに」
「あはは、偶然かな。……はい、報酬。ありがとう」
報酬の銅貨をチャリンと鳴らし、リルドは茜色の道を歩き出す。
解読不能な依頼さえも、その優しさで「正解」に変えてしまう。
『……ふん、まあ良い暇つぶしであったな。ところでリルド……今夜は布を緩めに巻いてくれぬか?』
「(……考えとくね)」
万年Fランクの日常は、謎解きのような優しさを残しながら、今日も穏やかに更けていく。




