表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

294/349

第295話

翌朝、リルドがギルドの扉を開けると、そこにはかつてないほど「気まずい沈黙」が漂っていた。

昨日、一緒に温泉へ行ったCランク冒険者が、食堂の隅で魂の抜けたような顔をして、ひたすらココアを啜っている。その周囲では、事情を察した(あるいは誤解した)仲間たちが「……気にするな」「世の中には、知らない方が幸せなこともある」と、肩を叩いて慰めていた。

「(あはは……なんだか、すごく申し訳ないことをしちゃったかな)」

リルドが視線を泳がせながら掲示板へ向かおうとすると、腰のラッファードがこれ見よがしに鞘をガタつかせた。

『リルドよ、昨日の衝撃以来、あの男からは「真理に到達した者」のような悟りの気配を感じるぞ。お主、ある意味では魔獣を倒すより大きな手柄を立てたのではないか?』

「(もう、茶化さないでよ。……あ、おはよう、受付さん)」

今日の依頼は、街の子供たちからの可愛らしい願い事だった。

『裏山の「虹色の粘土」を採ってきて! 最高の工作をしたいの!』

「虹色の粘土……。雨上がりの崖にしか出ない、珍しい粘土だね。よし、行ってくるよ」

裏山の崖下。リルドはクロを偵察に飛ばし、粘土が露出している場所を探していた。

「あ、あった。本当にキラキラしてる……。これなら子供たちも喜ぶね」

リルドが丁寧に粘土を掘り起こしていると、崖の上の茂みから、獲物を狙う『フォレスト・スネーク』が音もなく滑り降りてきた。だが、リルドは粘土の質を確かめるのに夢中で、振り返りもしない。

「クロ、あの子たちにぶつからないように、ちょっとだけ道を作って」

「キーッ!」

クロが鋭い羽ばたきで突風を起こし、ヘビの体勢を崩した瞬間。リルドは手に持っていた「粘土を削るための小さなヘラ」を、無造作に背後へ向けてシュッと振った。

ヘラから放たれた微風のような衝撃波が、ヘビの側頭部を優しく叩く。

「キュゥ……」

ヘビはそのまま、まるで魔法にかけられたように丸まって眠りに落ちてしまった。

『……ふむ。粘土を掘る手つきで、森の捕食者を無力化するか。お主の「ついで」の力は、相変わらず加減というものを知らんな』

「だって、せっかくの粘土に砂が混じったら大変でしょ?」

夕暮れ時、リルドは虹色に輝く粘土の塊を持ってギルドに戻った。

「ただいま、受付さん。粘土、採ってきたよ。子供たちに渡してあげて」

「おかえりなさい、リルドさん! まあ、こんなに綺麗な虹色……。あの子たち、きっと大喜びで英雄の像でも作るでしょうね。……あ、例のCランクの彼ですが、さっき『俺は、もっと「本質」を見抜ける男になる』と言い残して、修行の旅に出ましたよ」

「えぇ……。なんか、ごめんなさい……」

報酬の銅貨をチャリンと鳴らし、リルドは少し複雑な気持ちでギルドを後にした。

最強の力で粘土を採り、最強の事実で冒険者の人生観を変えてしまう。

「(……帰ろう、ラッファード。クロ、今夜は美味しい野菜炒めにしようね)」

『うむ。真理を突きつける「おっぱい問題」から、虹色の工作まで。……今日もお主の周りは退屈せんな。わっはっは!!』

「(もう、笑いすぎ!)」

万年Fランクの日常は、誰かの夢を壊し、誰かの夢(工作)を叶えながら、今日も穏やかに、そしてちょっぴり騒がしく更けていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ