29話
リルドは、腕の中で「シャーッ!」と威嚇し、必死に爪を立てようとする一匹を、驚くほど柔らかな手つきで支えた。
「はいはい、暴れないで。僕が魔法をかけてあげるからね」
彼がそっと子猫を温かいお湯に浸した瞬間、空気が変わった。
リルドの指先が、子猫の耳の後ろや首の付け根、自分たちでは届かない急所を絶妙な力加減で刺激していく。かつて「清掃」の奥義を極めた彼の指先は、今や汚れを落とすだけでなく、筋肉の緊張さえも解きほぐす至高のヘラとなっていた。
「……ミャ……ァ…………」
先ほどまで鋭い声を上げていたスウェアキャットが、一瞬で脱力した。
お湯の中で身を委ね、その顔には、およそ魔獣とは思えないほどの「恍惚な笑み」が浮かんでいる。とろけるような目つきで、リルドの指に頬を摺り寄せるその姿は、まるで極楽浄土を見ているかのようだった。
「よし、次は君だね。あはは、そんなに急がなくても順番にやってあげるよ」
一匹目がとろけているのを見て、残りの二匹も自分からお湯に飛び込んできた。リルドの手にかかれば、どんなに暴れん坊な子供たちも、ふにゃふにゃの毛玉に変貌してしまう。
作業を終えたリルドは、今度は厚手のタオルを広げた。
「さあ、仕上げだよ。風邪を引かないようにね」
タオルに包まれた子猫たちは、リルドに優しく包み込まれ、拭かれる間もずっと「ふにゃ〜……」と幸せそうな笑みを浮かべたままだ。その表情は、まるで一生このタオルに包まれていたいと言わんばかりの恍惚ぶりである。
そこへ、様子を見に来た職員と、放し飼いにされていた親のスウェアキャットが姿を現した。
「あの、リルドさん、やっぱり無理そうなら手伝い……って、えっ?」
職員は、中庭の光景を見て石のように固まった。
そこには、あれほどお風呂を嫌がっていた問題児たちが、まるで魂が抜けたような至福の表情でリルドに抱かれている姿があった。
「…………」
職員だけでなく、親のスウェアキャットまでもが、自分の子供たちの変わり果てた(?)あまりにも幸せそうな姿に、口をあんぐりと開けて立ち尽くしている。
「あ、職員さん。ちょうど終わりましたよ。この子たち、とってもお利口さんでしたよ」
リルドはいつもの穏やかな笑顔でそう言ったが、職員の耳には届いていないようだった。彼女の視線は、リルドの腕の中でとろけきっている子供たちの、見たこともないような「だらしない笑み」に釘付けになっていた。




