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ひだまりのFランク冒険者  作者: みなと劉


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287/346

第287話

翌朝、リルドの家の庭には、昨日畑から持ち帰った小石が、円を描くように美しく並べられていた。

「おはよう、クロ。……あはは、夜のうちに並べ直したんだね」

『おはよう、リルド。この毛玉、お主の石積みを真似ているつもりらしい。まあ、並びの規則性に微かな魔力の循環を感じるが……気のせいであろうな』

ラッファードが呆れたように振動する中、リルドは身支度を整えてギルドへと向かった。

ギルドの扉を開けると、そこには「平穏」を通り越して、どこか悟りを開いたような空気が漂っていた。

かつて「肉の聖戦」を繰り広げていた大男たちが、今では一杯の白湯を静かに啜りながら、窓の外を流れる雲を眺めている。

「……なぁ。結局のところ、風の音を聞きながら飲む水が一番身体に染みるんだよな」

「ああ、全くだ。足るを知る……。冒険者に必要なのは、剣の鋭さよりも心の静寂だったんだな」

食への執着から解き放たれた彼らは、もはやリルドの生き写しのような「隠居冒険者」の集団と化していた。

「(みんな、本当に穏やかだなぁ……。あ、おはよう、受付さん)」

『……ふむ。お主の影響力が、ついにギルドの生態系そのものを書き換えてしまったか。もはやここには、野心も闘争心も残っておらんぞ』

そんな受付カウンターで、リルドは一番端に置かれた、埃を被りそうな依頼書を手に取った。

『「忘れ去られた庭園」の草むしり、および古井戸の清掃』

「庭仕事だ。気持ちよさそう。受付さん、これ行ってくるね」

街の北端、古い屋敷の跡地にある「忘れ去られた庭園」。そこは長年の放置により、雑草が人の背丈ほどにまで伸びきっていた。リルドは袖をまくり、一本一本、根を傷つけないように丁寧に草を抜いていく。

『リルドよ。井戸の底に、淀んだ魔力の溜まり場があるぞ。放置すれば街の地下水が汚染される』

「わかってるよ。……よいしょっと」

リルドは井戸の縁に腰掛けると、手の中にあった「抜きたての雑草」を数本、縄のように編み込み、井戸の底へと放り投げた。

ポチャン、と小さな音が響いた瞬間、編まれた雑草はリルドの浄化魔力を吸い上げ、眩い緑の光を放つネットへと変化した。ネットは井戸の底に溜まった数百年の澱みを一瞬で絡め取り、そのまま清らかな真水へと浄化してしまった。

その時、庭園の奥から、住処を荒らされたと勘違いした『地這う大蛇アースバイパー』が鎌首をもたげて現れた。

「驚かせてごめんね。でも、ここを綺麗にすれば、もっと良い場所になるよ」

リルドは立ち上がることなく、手近にあった「庭の枯れ葉」を一枚、指先でピッと弾いた。

枯れ葉は空気を切り裂く刃となり、大蛇の鼻先数センチを通過して、背後の巨岩を真っ二つに両断した。

「……次は、当てちゃうよ?」

リルドが優しく微笑むと、大蛇は恐怖に全身を震わせ、砂煙を上げて森の奥へと逃げ去っていった。

夕暮れ時、リルドはカゴいっぱいの雑草を持ってギルドへ戻った。

「ただいま、受付さん。お庭、見違えるほど綺麗になったよ。井戸の水も飲めるようになったし」

「おかえりなさい、リルドさん。あら、その雑草……。薬師ギルドの人が見たら、血眼になって欲しがるような希少な薬草が混じっているけれど……。はい、こちら報酬の銅貨よ」

「あはは、ただの草ですよ。……帰ろう、ラッファード。クロ、今夜は並べた石の続きをしなきゃね」

報酬の銅貨をチャリンと鳴らし、リルドは茜色に染まる街路を、鼻歌まじりに歩いていく。

最強の力を、最高に贅沢な「暇つぶし」として使い切り。

万年Fランクのリルドは、今日も誰にも知られぬまま、世界の片隅を美しく整えていく。


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