25話
翌朝、リルドは窓際で日光浴をしている七色苔に少しだけ魔力を分け与え、活き活きとした輝きを確認してからギルドへと向かった。
掲示板の前には、今日も功名心に燃える若手冒険者たちが群がっていたが、リルドはその隙間から、端っこに貼られた馴染みの依頼をそっと剥がした。
「おはよう、受付さん。今日はこの『薬草採取』をお願いするよ」
「おはよう、リルドさん。はい、薬草採取ね。場所は……街から西へ少し行った『静寂の森』の入り口付近よ。最近、少し珍しい『銀縁草』も生えているって噂だから、もし見つけたら追加で買い取るわね」
リルドは「探してみるよ」と笑顔で答え、足取りも軽くギルドを後にした。
「静寂の森」はその名の通り、風の音と鳥のさえずりしか聞こえない穏やかな場所だった。リルドは草を踏まないように気をつけながら、依頼された薬草を探していく。
「あ、あった。これはいい癒やし草だね」
リルドはかつて極めた採取スキルの知識を使い、根を傷めないよう専用の小さなヘラで丁寧に掘り起こしていく。彼が触れると、薬草は摘み取られた後も新鮮な魔力を保ち続け、その薬効を最大限に引き出される。
しばらくして、受付嬢が言っていた『銀縁草』も見つけることができた。月光を吸い込んだような銀色の縁取りが美しいその草を、リルドは大切に籠に収めた。
「よし、これで終わりだね。今日も森の恵みに感謝しなきゃ」
採取を終え、夕暮れ時の道をのんびりと歩いていると、切り株の影からひょっこりと、キノコの姿をした魔物「マタンゴ」が顔を出した。
本来なら胞子を振りまく危険な魔物として冒険者には敬遠されるが、リルドは足を止め、優しく語りかけた。
「やあ、こんにちは。夕涼みかな? ここの地面は湿り気がちょうどよくて、過ごしやすそうだね」
マタンゴは一瞬、胞子を飛ばそうと身構えたが、リルドから放たれる圧倒的に穏やかな気配を感じ取ると、傘をぺこりと揺らして挨拶を返してきた。
「いい夜になるといいね。それじゃあ、またね」
リルドが手を振ると、マタンゴは嬉しそうに体を左右に揺らしながら、再び切り株の影へと戻っていった。
ギルドに戻ったリルドは、籠いっぱいの薬草を受付に並べた。
「はい、薬草だよ。銀縁草も少し見つかったから、一緒に持ってきたよ」
「お疲れ様、リルドさん! ……まあ、なんて綺麗な状態なの。まるで今摘んできたばかりみたい。銀縁草もこんなにたくさん! これなら最高の傷薬が作れるわ」
受付嬢は目を輝かせて報酬を計算し、いつもより少し多めの銅貨をリルドに手渡した。
「ありがとう。これで明日は美味しいパンを多めに買えるよ」
リルドは満足そうに微笑むと、背中の籠を軽く整え、夕焼けに染まる街路を家路についた。
万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰とも争わず、小さな命と触れ合いながら、穏やかに更けていく。




