24話
翌朝、リルドは窓辺で日向ぼっこをしている小鳥に「いってきます」と挨拶し、軽やかな足取りでギルドへ向かった。
掲示板をのんびり眺めていると、一枚の柔らかな色合いの依頼札が目に留まる。
「『木漏れ日の里』……。名前からして、お昼寝が捗りそうな場所だなぁ」
リルドはその依頼札を剥がし、受付へと持っていった。
「おはよう、受付さん。今日はここへ行ってくるよ」
「おはよう、リルドさん。木漏れ日の里ね。あそこは精霊の加護があるって言われている静かな場所よ。道中も穏やかだし、あなたにはぴったりね」
「木漏れ日の里」は、巨大な大樹の隙間から常に黄金色の光が降り注ぐ、幻想的な小さな村だった。
リルドは到着するなり、依頼書の内容を確認した。
「ええと、『里の広場にある古びた鐘の煤払い』か。よし、綺麗にしてあげよう」
リルドはかつて極めた清掃スキルの知識を使い、高い場所にある鐘まで風の魔法をそよ風のように操って、優しく煤を落としていく。彼が磨き始めると、鐘は次第に鈍い輝きを取り戻し、風が吹くたびに「チリン……」と、聞く者の心を癒やすような澄んだ音を響かせ始めた。
「うん、いい音だ。里のみんなも喜んでくれるかな」
依頼を完璧にこなし、里の人々からお礼に貰った瑞々しい果実を頬張りながら、リルドは帰路についた。
帰り道、街道の開けた場所で、数人の冒険者たちが苦戦しているのが見えた。
相手は「ワイドノックキック」という、巨大な足を持つ魔獣だ。その強力な蹴りは、並の盾なら一撃で粉砕してしまうほどの威力がある。
「くそっ! 攻撃の隙がない!」
冒険者たちが防戦一方になっているのを見て、リルドは足を止めた。
「あーあ。あんなに暴れたら、せっかくの綺麗な道がボコボコになっちゃうな」
リルドは足元に落ちていた、なんの変哲もない小さな小石を一つ拾い上げた。
そして、冒険者たちが次のキックを警戒して身を固めた一瞬の隙に、指先でその小石を「ピンッ」と弾いた。
シュンッ――。
小石は目にも止まらぬ速さで飛び、ワイドノックキックの膝の裏にある、特定の神経を正確に叩いた。
「ギュッ……!?」
魔獣は一瞬で足の力が抜け、そのまま地面に膝をつき、まるで反省でもしているかのような格好で動かなくなった。
「あ、今のうちに帰ろう」
リルドは固まっている冒険者たちの横を、気配を消してすり抜けていった。
夕方、リルドはギルドに戻り、受付へ向かった。
「受付さん、依頼完了したよ。木漏れ日の里の鐘、とってもいい音になったよ」
「お疲れ様、リルドさん。里の方からも感謝の魔法伝言が届いているわよ。はい、これが報酬ね」
銅貨数枚を受け取ると、リルドは満足げに微笑んだ。
「あ、それと帰り道にワイドノックキックが寝ていたから、通る人は気をつけるように伝えておいたほうがいいかも」
「えっ、あの暴れ馬が寝てた……? また不思議なこともあるものね」
受付嬢が不思議そうにするのをよそに、リルドは今日貰った果実を一つ、彼女の机にそっと置いた。
「これ、お裾分け。とっても甘いよ」
万年Fランク冒険者の日常は、今日も誰にも知られることのない「最強」を添えて、穏やかに暮れていく。




